今さら聞けない「農薬」って何? その1

段ボールに入ったダイコン、ニンジン、ネギなどの野菜

一般社団法人健康栄養支援センター
医療・福祉栄養研究部:管理栄養士
著者:日下千代子

はじめに

「農薬」については様々な意見があり、収穫をあげるため、安定供給に必要であると理解していてもなんとなく不安で、「無農薬」「有機野菜」の方が身体に良いのではないかと考えてしまいます。農薬の種類とその使われ方を、厚生労働省、農林水産省等の情報から農薬の基本知識や種類、安全性についての法律の勉強の成果をまとめてみました。

次回は農薬について食品別、土壌への影響等など、読者が不安に思われていることを取り上げます。

1.農薬の基本知識

(1)農薬とは

農薬とは、農作物を害虫、病気、雑草など有害生物から守るために使われる薬剤等をさします。

農薬取締法では、

・農作物の病害虫の防除に用いる殺菌剤

・殺虫剤その他の薬剤、

・農作物の生理機能の増進又は抑制に用いる成長促進剤

・発芽抑制剤その他の薬剤(除草剤、誘引剤、忌避剤、展着剤など)

を農薬と定義しています。さらに、薬剤ではないが、防除のために利用される天敵生物も農薬に含まれています。

てんとう虫の幼虫
てんとう虫の幼虫

(2)農薬の種類

種 類用 途
殺虫剤農作物を加害する有害な昆虫を防除する
殺ダニ剤農作物を加害する有害なダニ類を防除する
殺線虫剤根の表面や組織に寄生し加害する線虫類を防除する
殺菌剤植物病原菌(糸状菌や細菌)の農作物を加害する有害作用から守る
除草剤雑草類を防除する
殺虫殺菌剤殺虫成分と殺菌成分を混合して、害虫、病原菌を同時に防除する
殺そ剤農作物を加害するねずみ類を駆除する
植物成長調整剤植物の生理機能を増進または抑制して、結実を増加させたり倒伏を軽減したりする
忌避剤鳥や獣が特定の臭い、味、色を嫌うことを利用して農作物への害を防ぐ
誘引剤主に昆虫類が特定の臭いや性フェロモンに引き寄せられる性質を利用して害虫を一定の場所に集める
展着剤薬剤が害虫の体や作物の表面によく付着するように添加する
天敵農作物を加害する害虫の天敵
微生物剤微生物を用いて農作物を加害する害虫病気等を防除する剤
マスクをして野菜に農薬を散布する農業従事者
農薬散布の様子

 (3)農薬に関する法律

①農薬取締法

農薬の品質の適正化とその安全かつ適正な使用を確保することにより、農業生産の安定と国民の健康の保護・生活環境の保全に寄与し、農薬の登録、販売、使用に関する規制などを定めています。

②食品衛生法

食品の安全性の確保のために必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食による衛生上の危害の発生を防止し国民の健康の保護を図ることを目的とした法令です。
これは、残留農薬から食品の安全性を確保することを目的としています。食品の残留農薬基準が設定されています。2003年に農薬の残留規制強化(ポジティブリスト制度の導入)が行われています。

(4)ポジティブリスト制度

すべての食品について、農薬や動物用医薬品、飼料添加物などすべての化学物質の残留基準を定め、超えると出荷を停止する制度をポジティブリスト制度と言います。農薬類は約800種類について精査し、主な食品ごとの基準を設定しています。
規制には、原則自由で、残留してはならないものをリスト化(ネガティブリスト)する考え方と、原則的にすべてを禁止にして、残留を認めるものをリスト化(ポジティブリスト)する考え方があり、残留基準の設定されている農薬は、その基準以内であれば作物への残留を認めています。
残留基準の設定されていない農薬の残留は原則禁止となります。
輸入品も含めて、農薬は農作物ごとに許容量が定められており、市場に流通する農作物が基準に適合しているかどうか、国の検疫所および地方自治体の食品衛生監視員により検査が行われています。

2.農薬の安全性

(1)長期間摂り続けると危険か

残留している農薬の健康への影響は基準値を満たしている限り心配しなくてよいといわれています。
食べ物や水などから私たちが日常に摂取する農薬の量はわずかであり、健康に有害な影響のでるリスクが、現実的な問題にならないよう、低く抑えられています。

(2)体内に蓄積されるか

動物の体内に化学物質が入ると、その一部は体内に吸収され、体内でそのまま利用されたり、また、体内にあるいろいろな代謝系の働きによって分解され、利用されたり、また、排泄されます。特に体内において化学物質の代謝、排出、解毒については肝臓の役割が大きく影響します。
農薬が体内に入った場合については、化学構造が違えばその分解や排泄のされ方はそれぞれですが、主には下記のような経路を辿ると考えられています。

1.農薬成分は、体内で消化されず、消化管を素通りして排泄される。

2.農薬成分は、消化管内で分解され排泄。または、吸収される。

3.農薬成分やその分解物は、消化管から吸収され、主に肝臓で分解を受け、胆汁(肝臓から十二指腸に)や尿などとともに排泄される。

したがって、厚生労働省の定める基準値内であれば、農薬成分の動物での代謝・分解と蓄積性はないと言えます。

(3)作物に使われた農薬はいつまで残っているのか

作物に施用された農薬の挙動は、有効成分や、施用方法によって異なります。
食べ物や水などから私たちが日常に摂取する農薬の量はわずかであり、健康に有害な影響のでるリスクが、現実的な問題にならないよう、低く抑えられています。
土壌にまかれ根から吸収された農薬成分は、植物体内の酵素で分解され成長するにしたがって減少します。

(4)ポストハーベスト

収穫されてから市場に並ぶまでの期間に使用される農薬のことです。残留量が高く、注意が必要と言われ輸入食品にしようされることが多く、長距離輸送において安全性の面で問題があると言われています。
日本では、食品添加物とされており、その中に農薬が含まれています。殺虫目的の燻蒸剤として9種類が登録されており、防カビ剤として5種類が指定されています。
穀類には、殺虫剤であるクロルピリホスメチル、ピリミホスメチルなどが許可されています。
かんきつ類には、防カビ剤であるオルトフェニルフェノール(OPP)、チアベンダゾース(TBZ)、イマザリル、ベノミルなどを使用しています。
柑橘類の皮に多くに含まれているリモネンは脂質性のため、農薬が皮に含まれてしましまいますが、それより中には入らないため果肉には農薬は浸透しません。したがって、輸入された柑橘類の皮は注意が必要です。国産の柑橘類はポストハーベストを使用していません。
かび等による腐敗・変敗の防止など「防かび」目的に用いるものは、「食品の保存の目的」で食品に使用するものに該当することから、食品添加物として、使用基準等を設定し、違反する食品の輸入・販売を禁止しています。
また、食品添加物として取り扱われていますので、ポストハーベスト農薬を使用している表示が必ずあります。

グレープフルーツ
輸入されたものにはポストハーベスト農薬を使用されているものが多い

(5)病害虫のついた農作物は安全か

病害虫に侵された農作物は、ときに安全性上の問題を起こすことがあり、病害虫の攻撃に対抗するために植物自身が生成する防御物質(ファイトアレキシン)や病害自身が作り出す毒素などが人畜に影響を与える可能性があります。

*ファイトアレキシン:病原菌に侵された時には、対抗する抗菌物質を体内で作り出し、被害を抑えようとする天然の抗菌物質。作物が苦味などを強める場合、いくつかの抗菌物質は人間にも有毒なことが知られています。

(6)調理することで残留農薬は落ちるか

野菜や果物に農薬が残っていても、もともと健康に影響を及ぼすような量ではないので、そのまま食べても問題はないと言えます。
衛生面からは表面の土やほこりを水で十分に取り除くことは重要で、その時に残留農薬は水溶性なので取り除かれます
そして、普通は水で汚れを落として皮をむいたり、熱を加えて調理をしたりするのでさらに減少します。
皮ごと食べても農薬については体に影響は及ぼさない基準値が定められています。

水につけたオクラとミョウガ
農薬は水溶性なので水で良く洗ってから調理

3.農薬の国際比較と輸入品の安全性

残留農薬の基準の設定に当たっては、物質ごとに、毎日一生涯にわたって摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量(ADI:一日摂取許容量)を食品安全委員会が設定した上で、これを基に農薬等として使用される物質の推定される摂取量がこのADIを超えないよう食品ごとの基準を設定しています。
このADI設定の考え方は国際的に共通していますが、食品ごとの基準については、各国がそれぞれの国の事情に基づいて定めています。例えば、残留農薬の基準を個別に比較した場合、日本と諸外国との気候風土(高温多湿等)や害虫の種類の違いなどにより、農薬の使用方法や検査する部位が異なる(玄米と籾米など)ことなどから、基準値が異なる場合があります。
そのため、残留農薬の基準について、日本の基準が厳しい場合もあれば、諸外国又は国際基準の方が厳しい場合もあり、どちらが一概に厳しいとは言えません。

中国では、輸出される食品に対して、生産、加工、流通までの一連の工程を国家質量監督検験検疫総局(AQSIQ)が一元的に管理し、原料の生産業者、製造・加工業者の登録、輸出前検査を行っています(参考:中国食品安全法第91条、第99条)。輸出品は野菜工場等で抜き取り検査し、品質検査や残留農薬等の安全性検査を実施しています。残留農薬については、輸出先である日本の残留農薬基準により行われています。

参考資料:厚生労働省、農林水産省、日本農業工業会の各ホームページ

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