HNS食材塾 大根


一般社団法人健康栄養支援センター
医療・福祉栄養研究部所属 管理栄養士
 日下 千代子

大根について

大根は、アブラナ科大根属の植物で、昔から日本人の暮らしに馴染んできた野菜の一つです。
大根のルーツは諸説ありますが、地中海地方や中東が原産で古代エジプトから食用としていた記録があるようです。日本での最初の記録は「日本書紀」に『於朋花(おほね)』の名前で記されています。この名前が“大根(おおね)”に転じ、さらに室町時代からは音読みの“大根(だいこん)”と呼ばれるようになったようです。栽培が盛んになったのは江戸時代に入ってからで、地方ごとにあった多種類の大根は品種改良が盛んに行われ、漬け物などの加工にも積極的に取り組まれ、飢餓対策として栽培が奨励されました。
また、中国では「冬大根 夏しょうがで 医者いらず」と言われており、冬の健康野菜だそうです。咳や痰を止める、身体にこもった熱をとる、便秘を解消する、胃もたれを緩和するなど高齢の方から聞くことがあります。。

大根の産地


令和2年農林水産省の統計によると、年間出荷量のトップ3は、北海道、千葉、青森です。次いで、鹿児島、神奈川、宮崎と続きます。山梨、三重、大阪、京都、鳥取、島根、愛媛、高知、佐賀、沖縄など10府県の年間出荷量は農林水産省の統計上はゼロとなっています。

大根の種類

大根の種類は一説によると47種類とも言われています。地域の伝統野菜として大切にその種を守られ継承されているものもあります。しかしながら、一般的には、青首系と白首系の大根が中心です。一般的に手に入りやすい大根と特徴的な大根をいくつかあげておきます。

スーパーなどでよく見かける大根


青首大根

国内で生産される大根の大半を占めています。成長する時に根の部分が地上に出るため、日光が当たりその部分が緑色になるためです。全国的に栽培され、一年を通して流通しています。
ちなみに日本では古く、青、緑、黄みどりを「あを(旧仮名)」と総称していました。

白首大根

煮たときに苦みや辛みが出るものが多いため、漬物などに使われます。練馬大根、亀戸大根などが代表的です。

特徴のある大根


辛み大根

普通の大根より小ぶりで辛味が強く、水分が少ない大根の総称を言い、そばやうどんの薬味に使われ、煮物には向いていません。
辛み大根には、滋賀県の「伊吹大根」信州の伝統野菜「ねずみ大根」などがあります。

ねずみ大根
ねずみ大根

亀戸大根

長さが 30cm 程度で、先が細くなる小ぶりの大根です。江戸時代から現在の東京都江東区亀戸周辺で栽培され、大正時代に産地の名をとって「亀戸大根」と呼ばれるようになりました。大根の葉には、カロテン、ビタミンC、カルシウム、食物繊維が豊富です。亀戸大根の葉は、大根特有のとげが無いので、葉ごとで浅漬けや、鍋物でも食べられます。

亀戸大根
亀戸大根

源助大根

加賀野菜「源助大根」は、ずんぐりとした円筒形で肉質が柔らかく、大根らしい歯ざわりです。また、煮くずれしにくく、煮物用大根の代表品種で、おでんに用いられます。10月下旬~2月上旬に出荷されます。主な産地は、金沢市です。

源助大根
源助大根

板垣大根

福井県で生産され10月~11月に収穫される大根です。一般の大根に比べ細根で、小指の太さほどの時からでも首部は鮮明な緑色であるのが特徴です。辛味が強く、その辛味を活かして、越前おろしそばの辛味付けにも使用します。肉質が締まり、歯切れも良いため、糠漬けにも向いています。

板垣大根
板垣大根

わかやま布引大根

生産地である和歌山市布引地区、内原地区、紀三井寺地区、毛見地区で生産される青首大根で、根部の上から下まで太さがそろいヒゲ根が少なく、毛穴が浅く肌のきめが細かい大根です。
市場関係者からは、「(1)砂地で栽培される産地は多いが、根部がまっすぐに長くボリュームがあり、青首の青い部分と白い部分のコントラストがよい。(2)大根の肌に張りと艶があり、鮮度感が高く、瑞々しく非常に柔らかい。(3)出荷は時期を通じ(秋冬大根及び春大根の出荷される11月から翌年5月までの期間)安定しており、適期収穫により葉の折れや変色が少なく品質も良い。」と評価が高く、高値での取引に繋がっているようです。

わかやま布引大根
わかやま布引大根

聖護院大根

京都の伝統野菜の一つで、大きな球形で煮崩れしにくいため、おでんや風呂吹き大根などに適しています。京都以外で栽培されたものは「丸大根」と言われています。

聖護院大根
聖護院大根

守口大根

直径は小さく2~3㎝で、長さが1m以上の長さに生長します。酒粕で漬けこみ「守口漬け」として市場に出回っています。

守口大根
守口大根

桜島大根

世界一大きい大根です。通常は6㎏、大きいもので30㎏になるものもあるようで、ギネスブックに「世界一の重さを持つ大根」として認定されています。「トリゴネリン」が含まれており、血管機能の改善効果が期待されています。(JA鹿児島みらい)

桜島大根
桜島大根

祝い大根、正月大根雑煮大根

大和野菜のひとつで、直径3㎝ほど、正月に丸餅、金時人参などと共に「角が立たない」雑煮用として用いられます。

祝い大根、正月大根、雑煮大根
祝い大根、正月大根、雑煮大根

大根の栄養素

大根に含まれている酵素はアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼです。大根の辛味のもととなるイソチオシアネートは、すりおろしたり切ったときに大根の細胞が破壊されることで生成され、血栓予防や殺菌作用などの効果があります。また、大根の葉には、カロテン、ビタミンC、カルシウム等が豊富に含まれています。たんぱく質、脂質、炭水化物はほとんど含まれておらず、水分が90%以上です。葉にはカリウム、カルシウムが比較的多く含まれていますが、栄養素的にはエネルギー、ビタミン類はあまり期待できません。


選び方

持ってみて、ずっしりと重みがあり、曲がっていないもの、色が白くて皮のきめが細かく、ツヤとハリがあるものが良いと言われています。また、ひげ根がついているくぼみを通る筋が、垂直にまっすぐ通り、ひげ根は少ないものを選ぶことも大事なようです。根の先に毛穴が少ないものは、順調に生育した証しで、その肉質も緻密です。
葉がついている場合は葉先が黄色くなっていない、瑞々しいものを選びます。

大根の選び方

“ス”入りのチェック

茎の断面の切り口の中央が白いものや空洞になっているものは、スが入っていることが多いので、避けた方がよいでしょう。
★ もし“ス”入りの大根、長期保存で“ス”が入ってしまった大根
おろしや、小さく切って干し大根にして食べる方法もありますが、新鮮でみずみずしいものが美味しいのは言うまでもありません。
★ “ス”入りの大根の栄養素についてのデータはありませんでしたが、下記のホームページを参考にしてください。
日本食品標準成分表2020年版(八訂):文部科学省 (mext.go.jp)

大根の保存方法

大部分が水分ですので、乾燥を防ぐようにして保存します。寒い季節には、新聞紙に包んで風が直接当たらないところに置けば、1週間は保存できます。
葉付き大根を手に入れたときは、根と葉は切り分けて別々に保存します。そのままにしておくと、葉からどんどん水分が蒸発していくため、根の水分が失われてしまいます。
葉の保存方法は、葉元ギリギリのところに包丁を入れ、切り口のところにキッチンペーパーを巻きます。そしてビニール袋に入れて立てた状態で保存しておきます。こうすると傷みにくく、葉の部分も余すことなく食べられます。
大根の根の保存は、根元部分、中間部分、先端部の3つに切り分け、それぞれキッチンペーパーで丁寧に包んだ後、ポリ袋、ジッパー式保存袋に入れ、密封して寒冷所で保管します。キッチンペーパーが湿ってきたら、まめに取り替えましょう。

 大根おろしは冷凍可能

大根をすりおろしたら、栄養素は抜ける可能性がありますが、水気を軽く切り、冷凍します。だし巻き卵などの付け合わせに使うときは、製氷皿やアルミカップなどで小分けにして冷凍します。付け合わせ以外の場合は冷凍保存用袋に薄く平らにして冷凍します。使うときには自然解凍してそのまま食べることができます。1ヵ月ほどを目安に使いきります。

 葉も刻んで冷凍

細かく刻んだ葉を塩揉みし水気を絞り、冷凍保存用袋に平らにして入れ冷凍庫で保存すると、約1カ月保存できます。菜飯などが手軽にできます。軽く茹でてから冷凍保存すると、炒め物や味噌汁用などに便利です。

大根の加工品

 乾物類

切干大根、凍切干大根、割干し大根などがあります。

切り干し大根
切り干し大根


 漬物

沢庵漬け、燻りガッコ、壺漬け、べったら漬け、紀の川漬け、たまり漬け、福神漬け、守口漬け、麹漬けなど、各地方の特色のある名産品となっています。

大根のことわざ

 「大根食ったら菜っ葉干せ」
大根の葉のようにいつもは捨ててしまうようなものでも、まさかの時に役に立つという意味。大根の葉にはビタミン類やカルシウムなどの栄養がたっぷりです。
 「大根役者」
大根は消化がよいので、お腹(なか)の調子が悪くなること、あたることはめったにありません。このことから、平凡で、あたらない(うけない)役者をこういうようになりました。
 「大根頭にごぼう尻(じり)」
大根は頭の方がおいしく、ごぼうはお尻(しり)の方がおいしいという意味です。大根は先の方が辛いので、頭の方が甘く感じられます。また、ごぼうは、お尻の方の組織がやわらかいので、このようにいわれます。
 「大根どきの医者いらず」
大根の収穫どきにはみんな健康になり、医者がいらなくなるという意味です。大根はお腹の調子を整え、消化をよくするはたらきがあり、昔から体によいものとされてきました。
*今は年間を通して収穫されますので、このことわざは当てはまらないかも知れませんが、以前は冬の野菜とされていました。ちなみに大根は冬の季語です。


大根を使ったメニュー紹介


一般的に根の上の方に甘みがあるので、サラダやおろしなどの生食用として最適です。下の方は辛みがありますので、薬味などに良く、中心部は煮物にむいているようです。春から夏の大根は辛みが強く、冬の大根は甘みが増すという特徴があります。大根おろしは、時間が経つにつれてビタミンCが失われますが、おろした直後に少し酢を加えると、ビタミンCが壊れにくくなります。
大根の品種、部位により調理の方法が様々あるので、特徴を活かして調理をしましょう。

白身魚と大根の白ワイン蒸し

白身魚(平目など)の切り身を塩と胡椒をふり、薄切り大根と合わせ、皿に盛り、白ワインをかけて、大根に火が通るまで蒸す。トマトジュース、ホタテフレーク缶詰(汁ごと)を半分になるほど煮詰め、白ワイン、生クリーム、バターを加えたソースで、冷めない内にいただく。

白身魚と大根の白ワイン蒸し
白身魚と大根の白ワイン蒸し

大根のゼリー寄せ

大根の皮をむき、乱切りにし、軽く下茹でする。チキンコンソメ、酒、薄口醤油の薄味で柔らかく煮る。大根があめ色になったら、火を止め、決められた分量より少な目のゼラチンを入れて溶かす。自然に冷まし冷蔵庫に入れて冷やし固める。盛り付けはざっくりと鉢に盛る。

大根のゼリー寄せ
大根のゼリー寄せ

大根の奉書巻き

大根を厚めの桂むきにし、塩を振ってしんなりさせ、水をくぐらせ水分をふき取る。巻きずし用の簾の上に広げ、スモークサーモンをのせ、しっかりと巻く。食べやすい大きさに切って盛りつける。

大根のむらさき漬け

大根を小指大の拍子木切りにする。漬け地は、ごま油=2:濃口醤油=3:酢=2で1時間ほど漬ける。好みで砂糖、一味唐辛子、七味唐辛子などを加えても良い。
*「むらさき漬け」は醤油の別称を「むらさき」と呼称するため。

親子サラダ

大根を千切りにし、その上に1割程度のかいわれ菜をのせ、削り節をトッピング。食卓で、好みのオイル、醤油、レモンなどの柑橘類を加え、お箸でよくかき混ぜていただく。ベーコンがあればカリカリに焼いて削り節の変わりにすると洋風になる。
*親子でなくなるが、菊菜やクレソンなどともよく合う。

角切り大根のサラダ

皮をむいて小指大に切った大根をドレッシングで和えるだけ。ドレッシングは酸味が少ない方が良くあう。ピンクペッパーを散らすと、彩と香りが良い。
*ドレッシング割合(参考) 砂糖:大さじ1、塩:小さじ1、酢:大さじ3、好みの油:大さじ3

大根のバルサミコ酢煮の生クリーム添え

大根の皮を剥き5㎝長さの千切りにする。バルサミコ酢:2、水:2、黒砂糖:1の割合で歯応えが残るように煮る。粗熱が取れたら、冷蔵庫で冷やし、いただく直前に5部立てにした生クリームを適宜かけいただく。

大根のバルサミコ酢煮の生クリーム添え
大根のバルサミコ酢煮の生クリーム添え

中華風大根丼

大根は千切りにする。太白ごま油でニンニク、ショウガを炒め、好みの挽肉、大根を炒め、スープを加えて煮る。大根がだいたい煮えたら、醤油、酒、砂糖、八角を加え大根が煮崩れないまえに、水で溶いた片栗粉を加える。仕上げは八角を取り除き、ごま油を回しかけ暖かいご飯の上にかける。
*八角を入れずに、大根の歯ごたえを残すと、和風のおかずになる。
*このままだと彩りがさびしいので、あればクコの実の赤やパクチーなどの緑をトッピングすると良い。

中華風大根丼

大根と干し椎茸のポタージュ

干し椎茸はもどしておく。大根は細かく刻み、チキンコンソメと椎茸の戻し汁を7対3の割合で完全に柔らかく煮る。煮汁ごとミキサーにかけ、鍋に戻しいれ、生クリーム、塩、胡椒で味を調える。
*丁寧にする場合はミキサーをかけた後、裏ごしをすると良い。
*ブレンダーがあれば、それを使うと簡便。多少の塊も食感が変わって良い。

大根と干し椎茸のポタージュ
大根と干し椎茸のポタージュ

大根とエリンギ炒め

大根は皮を剥き、厚さ3㎜の短冊に切る。エリンギは大根よりやや厚めに切っておく。フライパンに油を熱しエリンギに塩を少量ふり、汗が出るまで中火で炒める。大根を加え強火で水気がでないように炒める。大根の歯応えを残して、酒、塩、胡椒で味を調え、最後に醤油をたらす。中華風にするには酒を紹興酒に醤油をオイスターソースにする。
*好みのキノコを使っても良い。写真はしめじを利用。

大根としめじ炒め
大根としめじ炒め

大根葉と豚肉の炒めもの

豚バラ肉を、油をひかないフライパンでじっくりと焼き色がつき、油が出るまで焼き、醤油で味をつける。大根葉を食べやすい大きさに切り、豚肉と炒め合わせる。(大根葉によって固い場合はさっと茹でる)

半日干し大根のステーキ風

大根を皮付きのまま1.5㎝の輪切りにして、ざるに広げ、途中で裏表を返して5~6時間干す。
ステーキ風にきつね色になる程度にバターで焼き、調味料を酒、醤油にすれば和風、オリーブオイルとバルサミコ酢であればイタリア風、ごま油、豆板醤にすると中華風になる。

みぞれ鍋(雪見鍋)

鬼おろしで大根をすりおろし、豚肉や白菜、ネギ、キノコ類、好みの野菜を、すまし汁くらいの味で煮る。
★鬼おろし:大根をあらくおろす竹でつくったもの。

鬼おろし
鬼おろし

参考資料:農林水産省 https://www.maff.go.jp/ 
     「四季の味」 株式会社鎌倉書房 32・36・40・44・48号