栄養素シリーズ 第6回 水溶性ビタミン(その2)

一般社団法人健康栄養支援センター
医療福祉栄養研究部
管理栄養士:日下千代子

*ビタミンB₁₂(コバラミン)
ビタミンB₁₂は、コバルトを含有する化合物(コバミド)で、アデノシルコバラミン、メチルコバラミンなどがありますが、食事摂取基準の数値は、日本食品標準成分表に従って、シアノコバラミンの重量で設定されています。
ビタミンB₁₂の機能は、アミノ酸(バリン、イソロイシン、トレオニン)の代謝やメチオニンの生合成に関与します。
ビタミンB₁₂の欠乏で、巨赤芽球性貧血、脊髄および脳の白質障害、末梢神経障害が起こることが知られています。
食品中のビタミンB₁₂は、たんぱく質と結合しているので、胃酸やペプシンの作用で遊離し、いくつかの作用を経由して、腸管上皮細胞に取り込まれます。
消化過程等は食品ごとに異なり、同時に食べる食品の影響もうけることがあり、正常な胃の機能を有した健康な成人では、食品中のビタミンB₁₂の吸収率はおよそ50%とされています。
ビタミンB₁₂を必要量以上摂取しても、吸収機構が飽和するため、生理的には吸収されません。
腸内細菌によってもビタミンB₁₂はつくられるので、普通の食事では欠乏する心配はありません。しかし、胃液中にはB₁₂の吸収に必要な特殊たんぱく質があることが知られており、胃液の分泌が十分でない場合は吸収されにくいため不足する場合があります。高齢者は萎縮性胃炎などで胃酸の分泌が低い人が多いので、食品中に含まれるたんぱく質と結合したビタミンB₁₂の吸収率は減少しています。しかし、高齢者のデータがないため、必要量、推奨量は成人と同じ値としています。
妊婦は0.4㎍、授乳婦は0.8㎍が付加されています。
水によく溶け、熱にも安定しています。

シジミの味噌汁 ビタミンB12が多く含まれる

*葉酸(フォラシン)
欠乏すると赤血球の形成が妨げられ、小球性低色貧血を起こします。ヒトでは腸内細菌によってある程度合成され、食品にも広く含まれているので、欠乏の心配はほとんどありません。核酸成分の合成に関与しています。
葉酸の欠乏症は、巨赤芽球性貧血があると言われていますが、葉酸の欠乏かビタミンB₁₂によるかどうかは鑑別できていません。葉酸の不足は、動脈硬化の引き金になる血清ホモシステイン値を高くすることが知られています。
消化過程は食品ごとに異なりますが、同時に摂取する食品に影響されることもあります。食事での葉酸の利用率は25~81%と報告されています。
妊娠初期、計画、可能性のある女性は、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために、400㎍/日を摂取することがのぞまれています。受胎前後に葉酸サプリを投与することで、胎児の神経管閉鎖障害のリスクが低減することは多くの介入試験で明らかにされています。
中期、後期の妊娠時は、葉酸の分解と排泄が促進される報告があるため、200㎍/日に40㎍を付加した240㎍を推奨しています。
生活習慣病の発症予防には、食事性葉酸の積極的な摂取が有用であると言う研究報告が複数あり、有意な関連が認められています。しかしながら、明確な閾値は観察されていません。
通常の食品を摂取している限り、過剰摂取による健康障害があったと言う報告は現在のところみあたりません。
名前の由来は、ホウレンソウから初めて分離されたためです。

水戻しワカメ 葉酸が多く含まれる

*パントテン酸
ニワトリや雛の皮膚炎の治癒因子として見つかったパントテン酸は、食品に広く分布し、腸内の細菌によってもつくられ、欠乏の心配はほとんどないと言っても良いビタミンです。中性では安定、酸性・アルカリ性で加熱するとβアラニンとパントイン酸に分解されます。パントテン酸自体には生理作用はありませんが、体内で補酵素A(CpAHS)の構造の一部に使われます。
ヒトでの欠乏症は稀ですが、これが不足すると細胞内のコエンザイムAの濃度が低下するため、成長停止、副腎障害、手足のしびれと灼熱感、頭痛、不眠、胃不快感などが起こります。
パントテン酸の消化吸収は一緒に食べる食品にも影響されますが、我が国では平均的な食餌中の生体利用率は70%程度と報告されています。
国民健康・栄養調査(平成28年度)の調査結果から通常の食事から欠乏症が出たとの報告がないため、その中央値を目安量としています。
通常の食品で可食部100g当たりのパントテン酸の含量が5㎎を超える食品はレバーのみで、過剰摂取が発現したとの報告は見当たりません。
パントテン酸摂取と生活習慣病の発症予防や重症化予防になるとの報告はみあたりません。
パントテン酸は、ギリシア語で「どこにでもある酸」と言う意味で、あらゆる食品に存在しています。

鶏レバーの串焼き パントテン酸は多く含まれる

*ビオチン(ビタミンH)
ビオチンは、ピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素です。欠乏すると、乳酸アシドーシスなどの障害がおきます。また、ビオチンは抗炎症物質を生成しますのでアレルギー症状を緩和する作用もあります。
不足すると疲れやすくなり、皮膚炎を起こします。腸内の細菌によってつくられるので、通常は欠乏の心配はないとされています。ビオチン欠乏の症状は、乾いた鱗状の皮膚炎、萎縮性舌炎、食欲不振、むかつき、吐き気、顔面蒼白、性感異常、前胸部の痛みなどが引き起こされます。
ビオチン欠乏症は、リウマチ、シェーグレン症候群、クローン病などの免疫不全症だけでなく、糖尿病のⅠ型、Ⅱ型に関与しています。
食品には、ほとんどがタンパク質中のリシンと共有結合しており、調理、加工過程で遊離型になることはありません。消化管で、たんぱく質を分解、数段階を経てビオチンが遊離され、主に空腸で吸収されます。
消化過程は食品ごとに異なり、一緒に食べる他の食品によっても影響を受けます。よく知られているのは、卵白のアビジン(水溶性たんぱく質の一種)は腸内でビオチンと結合して、吸収を阻害する報告です。アビジンはビオチンと不可逆的に結合するためです。
ビオチンは糖新生や脂肪酸合成に関わる補酵素なので、空腹時に血糖値が下がった時や、食後にグルコースやアミノ酸が余剰になったときに必要量が高まります。
日本食品標準成分表(2015年版)には、ビオチンの成分値が測定されていませんでしたが、2020年版(八訂)には一部の食品を除き測定されています。目安量はトータルダイエット法による値を採用して、成人(18~64歳)の目安量を50㎍/日と設定しています。
過剰摂取になる食品はレバーを除いて見当たらないため、通常の食品を摂取していれば過剰摂取による健康被害が発現したとの報告はありません。
ビオチン摂取と生活習慣病の発症予防や重症化予防になるとの報告はみあたりません。

シイタケやマイタケなどキノコ類 ビオチンが多く含まれる

*ビタミンC(L-アスコルビン酸)
ビタミンCは皮膚やコラーゲンの合成に必須のビタミンです。ビタミンCが欠乏すると、壊血病、皮膚が荒れ、毛細血管が破れやすくなって皮下出血を起こします。これは、ビタミンCの欠乏により細胞間の結合組織を作っているコラーゲンの合成がうまくできないためです。
また、抗酸化作用があり、体内でビタミンEと協力して活性酸素を除去して細胞を保護しています。
L-アスコルビン酸は水やエタノールによく溶けます。結晶状態では安定していますが、水溶液では空気中の酸素によって酸化され、アルカリ性では特に酸化されやすいビタミンです。
ビタミンCは、消化管から吸収されて血中に送られます。消化過程は食品ごとに異なり、一緒に食べる他の食品の影響を受けます。ビタミンCは食事から摂取されたものとサプリメントから摂取したものとでその生体利用率に差異がない例外的なビタミンです。吸収率は200㎎/日までは90%と高く、1g/日以上の場合は半分以下になります。
体内のビタミンCレベルは、消化管からの吸収率、体内における再利用、腎臓の排泄などで調節されており、血漿濃度はおよそ400㎎/日で飽和します。
ビタミンCを10㎎/日程度摂取していれば、欠乏症(壊血病)にはなりませんが、「日本人の食事摂取基準」ではビタミンCは100mg/日(成人男女)を推奨量としています。災害時など通常の野菜など生鮮食品を提供することが難しい場合の食事計画、栄養評価は大事な指標になるビタミンといえます。
心臓血管系の疾病予防効果や有効な抗酸化作用は、血漿ビタミンC濃度が50μmol/L程度であれば、期待できることが疫学研究などで示されています。
体内ビタミンCプールを反映する白血球ビタミンC濃度は100㎎/日で飽和しますので、この推奨量は妥当と考えられます。
過剰摂取による健康障害が発現したとの報告はみあたりません。しかし、腎機能障害を持つ人は、ビタミンCの過剰摂取により腎蓚酸結石のリスクが高まる報告があります。一般的なものとしては、吐き気、下痢、腹痛など胃腸への影響があります。
生活習慣病の発症予防や重症化にビタミンCサプリメントの有益な化学的根拠は明確になっていません。尿路結石や腎臓障害のある人に対しては2,000㎎/日を摂取することは推奨されません。
アスコルビン酸の名称は,壊血病(scurby)を予防、治療する因子という意味で、否定の接頭語aをつけてascurby acid とされました。
ヒト、サル、モルモット以外の動物はビタミンCを自家合成できます。

キウイフルーツ ビタミンCを多く含む
kiwi halves on wooden board, close up view,

参考図書:
「日本人の食事摂取基準2020年版」伊藤貞嘉、佐々木敏<監修>第一出版
「管理栄養士・栄養士のためのアクセス生体機能成分」五明紀春、グュエン・ヴァン・チュエン、倉田忠男、谷本信也:共著 技法堂出版
「よくわかる生化学」津田道雄:著 金原出版