基礎からわかる【糖尿病】 気を付けたい生活習慣
著者 プロフィール
加藤里奈
一般社団法人健康栄養支援センター 理事/副会長
医療福祉栄養研究部コーディネーター
管理栄養士
Contents
■糖尿病とは
糖尿病とは、膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンが少なくなったり効きが悪くなったりして、血液中のブドウ糖をうまく体内に取り込めなくなった状態のことです。
その結果血糖値(=血液中のブドウ糖の濃度のこと)が高い状態が続き、放置すると全身にさまざまな合併症を引き起こす恐れがあります。
日本人では、「糖尿病が強く疑われる者」と「糖尿病の可能性を否定できない者」を合わせると約2,000万人になります。(平成28国民健康栄養調査)
■糖尿病の種類
Ⅰ型糖尿病・・・膵臓のβ細胞が破壊されて体内でほとんど、あるいは全くインスリンを作れなくなってしまうもの。
自己免疫性(自分自身でβ細胞を攻撃してしまう)と特発性(原因不明)の2種類あり、インスリン療法(自己注射などでインスリンを補うこと)が必要になります。
Ⅱ型糖尿病・・・遺伝的因子に過食や運動不足などの生活習慣が関わって、インスリン分泌が低下したりインスリンの効きが悪くなるものです。日本人の糖尿病患者の90%以上がこのタイプです。
このほかに、妊娠糖尿病、他の病気が原因で発症する糖尿病 などがあります。
■糖尿病の診断基準
①空腹時血糖値≧126mg/dl
②75gOGTT(経口ブドウ糖負荷試験※1)2時間値≧200mg/dl
③随時血糖値≧200mg/dlのいずれか(静脈血漿値)
が、別の日に行った検査で2回以上確認できれば糖尿病と診断されます。
血糖値がこれらの基準値を超えても1回だけの場合は糖尿病型と呼びます。
また、①~③のいずれかと、
④HbA1c※2が6.5%(国際標準値)以上、
が確認された場合は糖尿病と診断されます。
※1経口ブドウ糖負荷試験・・・糖尿病が疑われる患者に対し、短時間に一定量のブドウ糖水溶液を飲んでもらい、一定時間経過後の血糖値の値から、糖尿病が存在するかどうかを判断する方法で、75gのブドウ糖を負荷し、2時間後の血糖値を測定して診断します。
※2HbA1C(ヘモグロビンエイワンシー)・・・高血糖の状態が長期間続くと血管内の余分なブドウ糖は体内のたんぱくと結合します。この際赤血球の蛋白であるヘモグロビンとブドウ糖が結合したものがグリコヘモグロビン(HbA1C)で、血液中のHbA1C値は、測定した日の1~2か月前の血糖の状態を推定できます。
■症状
初期ではほとんど自覚症状がありません。
ある程度進行すると、
尿の回数や量が多い・のどが渇く・いつも通り食べているのに痩せる・疲れやすい・視力障害・月経異常・・・
などが現れます。
■糖尿病を放置すると
血糖値が高い状態が続くと、血液は濃度が高くドロドロとした状態になります。
これが長時間、あるいは長期間続くと、血管がもろく弾力もなくなってしまいます(⇒動脈硬化)。血流が悪くなって、必要な酸素や栄養素が体に行き渡りにくくなり、全身の臓器にさまざまな障害が起こってきます。
これは、糖尿病の合併症とよばれていて、腎症・網膜症・神経障害を3大合併症といいます。
■糖尿病を予防するには?
Ⅱ型糖尿病は、生活習慣を改善することで予防することが可能です。
中でも食事が非常に重要になります。
血糖値は、1日の中でも食事をするたびに変動し、通常は食後2時間程度で上がった血糖値が元に戻りますが、インスリンの働きが悪いと食後に急激に高くなったり、常に高血糖の状態が続くことになります。
それを防ぐためには、食後急激に血糖値を上げないような食べ方をすることが大切です。
★適量を知る
自身に合った食事の摂取量を知りましょう。
<総エネルギー摂取の目安>
総エネルギー摂取量(kcal/日)=目標体重(㎏)×エネルギー係数(kcal/kg)
<目標体重の目安>
65歳未満: 身長(m)×身長(m)×22
65歳~74歳: 身長(m)×身長(m)×22~25
75歳以上: 身長(m)×身長(m)×22~25
身体活動量(kcal/kg標準体重) = 軽い労作:25~30 普通の労作:30~35 重い労作:35~
<糖尿病診療ガイドライン2019>
摂取エネルギーが適当であるかは、体重の計測によって知ることができます。
摂取エネルギーと消費エネルギーがほぼ同じであれば、大きな体重変動はありません。
定期的に体重を測り、自身の活動量に見合った食事量を見つけましょう。
★適正体重を知る
BMI(体格指数)=体重(kg)÷身長(m)×身長(m) が25以上は肥満とされます。
肥満は、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる)を生じるリスクが高まります。
肥満者は当面は、現状より3%の体重減少を目標にします。 <糖尿病治療ガイド 2020~2021>
目標とするBMIの範囲(18歳以上)
<厚生労働省 日本人の食事摂取基準2020年版>より
★腹八分目を心がける
よく噛むことで、満足感が高まり、食べ過ぎを防ぐことができます。
具材を大きめに切ったり固めに調理したりするのもよいでしょう。
★バランスよく食べる
できるだけ毎食、主食(エネルギー源になる。主な栄養素は炭水化物。米・パン・麺など)・主菜(体をつくる。主な栄養素はたんぱく質。魚・肉・大豆・卵・乳製品など)・副菜(体の調子を整える。主な栄養素はビタミン・ミネラル。野菜類・海藻類・きのこ類など)が揃うように心がけましょう。
ごはん・汁物・主菜・副菜1(煮物など)・副菜2(酢の物や和え物など)をそろえた和食の伝統的な献立にすると、自然と多様な食材が摂れます。
とはいえ、毎食何品も用意するのは大変だと思います。
丼や麺類を具沢山にする、鍋料理をする、ハムやピーマンなど具沢山のピザやサンドイッチ、など単品の食事でも、工夫次第で3つが揃うことは可能です。
まずはごはんと具沢山の味噌汁から始めてみるのもお勧めです。
★食材選び
基本的には、食べてはいけないものはありません。
・糖質 ⇒糖質の多いもの、精製した穀物、食物繊維の少ないものなどは要注意!
・脂質 ⇒脂身は除く。動物性(バターなど)より植物性(オリーブ油など)を。魚に含まれる不飽和脂肪酸を積極的に!
・たんぱく質 ⇒肉に偏らないように。脂身の多い部位は避けます。大豆やその加工品である豆腐などに含まれる植物性タンパク質も積極的に。
・食物繊維 ⇒血糖値の上昇を緩やかにします。野菜類・海藻類・きのこ類・雑穀など。
・低GI値の食品 ⇒血糖値を上げにくい食品(糖質の少ないもの・精製度の低いもの・食物繊維の多いもの)を積極的に取り入れましょう。
★食べ方
・野菜から先に食べる⇒炭水化物から先に食べるより、野菜から先に食べたほうが、血糖値の上がり方が緩やかになります。
・よくかむ⇒食べることに時間をかけることで満腹感を得やすくなります。食材は大きめに切ります。
・薄味に⇒味が濃いと、つい主食のごはん等を食べ過ぎてしまうため、できるだけ薄味を心がけましょう。
・酢を生かす ⇒食後血糖値抑制効果があるという研究結果があります。
・「ゆでる」「蒸す」「煮る」などは、「揚げる」「炒める」に比べ油の使用が少なくてすみます。
・見た目にボリュームアップ⇒骨付き肉、まるごと1尾の魚、1枚肉を薄く切り並べる など
・間食は200kcalまでを目安に⇒みかん2個、蒸しまんじゅう1個、プリン1個程度。スナック菓子やケーキなどの甘いお菓子は軽く200kcalを超えるので注意しましょう。
・アルコール⇒醸造酒(ビール、ワイン、日本酒など)より蒸留酒(焼酎、ウイスキーなど)の方が糖質が少ないです。
おつまみは野菜・良質のタンパク質(豆類や大豆製品・魚・脂身の少ない肉)を
・夜遅くに食べないようにしましょう。
★運動
運動はインスリン感受性(インスリンの効き具合のこと)を高め、高血糖を改善します※。
ウォーキング、ストレッチ、軽いジョギングなどの有酸素運動とともに、腹筋やスクワットなどのレジスタンス運動は筋力増強がはかられ、基礎代謝量の維持・増加に効果的です。
日常生活でこまめに体を動かすだけでも消費カロリーが上がります。
通勤時に一駅歩く、エレベーターに乗らない、掃除や洗濯のような家事など、できる範囲で体を動かす工夫をしてみてください。
<糖尿病療養指導ガイドブック2019>
※筋肉の収縮すなわち運動によってインスリン非依存性のグルコース輸送が引き起こされるしくみ
運動によって血中で生成されるブラジキニン(生理活性物質)が、骨格筋細胞のGLUT4(インスリンによって調節されるグルコース輸送体)の細胞膜へのトランスロケーション(=移行)を誘導することで、細胞内へのグルコース吸収を促進する。
運動は骨格筋細胞のAMPキナーゼを活性化させ、GLUT4のトランスロケーションを誘導することで、グルコース吸収を促進する。
(AMPキナーゼ:細胞のエネルギー状態の恒常性に関係する酵素。例えば、細胞のエネルギーが低下しているときにグルコースと脂肪酸の取り込みと酸化を活性化する。)
などが言われています。
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