栄養素シリーズ 第1回:たんぱく質

一般社団法人健康栄養支援センター
医療・福祉栄養研究部
管理栄養士: 日下千代子

はじめに

シリーズで5大栄養素について連載を始めます。
たんぱく質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素にプラスして第6の栄養素と言われる食物繊維を取り上げます。
第7の栄養素と言われその作用がすべて解明されていないフィトケミカルについても取り上げていく予定です。
教科書的になりますが、基本を押さえておきましょう。

たんぱく質とは

たんぱく質は、身体の主な構成成分であると同時に、生命を維持するためになくてはならない栄養素で、酵素や免疫物質として働きます。
また、血液成分(酸素・栄養素の輸送)、遺伝子、神経伝達物質、エネルギーなどにも利用されています。
人間の体は成人で約60%が水、約15~20%が脂質、15~20%がたんぱく質、3~4%が骨のカルシウム等のミネラル、炭水化物などで、肌や爪、髪の毛の主成分もたんぱく質で、非常に重要な機能を持っています。
ちなみに、たんぱく質(protein)の語源は、ギリシャ語で「第一のもの」つまり「最重要」という意味です。

アミノ酸

自然界には300種類以上のアミノ酸があると言われていますが、ヒトのたんぱく質を構成するアミノ酸は20種類です。
たんぱく質は、C(炭素)、H(水素)、O(酸素)、N(窒素)およびS(硫黄)等で構成され、特殊なものを除き、20種類のアミノ酸が互いにペプチド結合して構成されています。
20種類のアミノ酸のひとつでも欠けるとたんぱく質を合成することができないと言われています。 
アミノ酸は、ヒトの体内で合成することができない9種類の「必須アミノ酸」と、体内で合成できる11種類の「非必須アミノ酸」に分けられます。

アミノ酸(必須アミノ酸と非必須アミノ酸の一覧表)

BCAA (Branched Chain Acid、分岐鎖アミノ酸)とは、必須アミノ酸の中で、アミノ酸の炭素骨格が直鎖でなく分岐しているもので、バリン、ロイシン、イソロイシンの3つのアミノ酸のことです。
体内では合成できないので、食べ物から摂る必要があります。
BCAAはアミノ酸センサーを介してたんぱく質合成を促進します。
BCAAの利点として、肝臓における蛋白質合成を促進する、骨格筋におけるアンモニアの解毒を促進する、アミノ酸のインバランスを是正する、糖や脂質に代わってエネルギー源となる、糖代謝を是正する、免疫力を増強するなどがあげられます。

BCAAを多く含む食品の表。まぐろ、かつお、あじ、さんまの魚類。鶏むね肉、鶏もも肉、牛肉の肉類。卵。凍り豆腐、納豆、木綿豆腐などの大豆製品。牛乳、チーズの乳製品。

たんぱく質の分類

たんぱく質は、組成による分類、形状による分類、生理的機能による分類に分けることができます。

組成による分類は以下の3つに分類されます。
①単純たんぱく質
アミノ酸のみで構成されているたんぱく質で、アルブミン、グロブミン、グルテリン、硬たんぱく質などです。
②複合たんぱく質
アミノ酸以外に、非たんぱく質成分が結合されているたんぱく質で、糖たんぱく質、リンたんぱく質、核たんぱく質、リポたんぱく質、色素たんぱく質、金属たんぱく質などです。
③誘導タンパク質
単純たんぱく質と複合たんぱく質が作用して二次的に生成されたもので、コラーゲンの変性したゼラチンなどです。

形状による分類は以下の2つに分類されます。
①球状たんぱく質
水に溶けやすく、酵素たんぱく質や輸送たんぱく質などの機能をもっています。
②繊維状たんぱく質
水に溶けにくく、コラーゲンやケラチンなどの構造たんぱく質です。

生理的機能による分類として、酵素、輸送、収縮、調節、防御、貯蔵、構造タンパク質があります。

アミノ酸スコア

アミノ酸スコアとは、人間にとっての必須アミノ酸(体内合成できないアミノ酸)全9種類の含有率を点数化したもので、アミノ酸評価点パターンを用いた評価法です。たんぱく質を摂取する場合、必須アミノ酸組成が私たちの身体が必要とするアミノ酸バランスに近く、なおかつ十分に消化されるものが良質なたんぱく質といわれます。
必須アミノ酸のどれかひとつでも足りないと、その少ないアミノ酸量に応じたたんぱく質しかできません。
しかし、ある食品に必須アミノ酸が不足している場合であっても他の食品で補うことができ、それをアミノ酸の捕捉効果と言い、栄養価の改善が行われます。
具体的には、精白米や小麦粉にはリシンが不足していますので、リシンを多く含む鶏卵や肉、魚を組み合わせて食べると必須アミノ酸をバランス良く摂ることができます。

偏った食事をしていると、一部のアミノ酸が不足する場合があるので、植物性、動物性両方のたんぱく質を摂ることが大切になります。
注意すべき点は複数のアミノ酸が不足している場合に、一つの必須アミノ酸を補足しても逆にたんぱく質の利用効率が悪くなることが知られており、成長を抑制することになります。特に成長期の子どもには好き嫌いせずに多種多様なたんぱく質を摂取することが大事です。

アミノ酸バランスの図。必須たんぱく質のどれかが欠けると十分なたんぱく質が合成されない。

たんぱく質の働き

たんぱく質の働きはどのようなものがあるでしょうか。

身体の構成成分として

人の体の約60%は水分でできており、15~20%はたんぱく質でできています。
つまり、身体の水分を除いた重量の約半分はたんぱく質で構成されています。
毛髪や爪もケラチンというたんぱく質からなります。また皮膚の内部にはコラーゲンが全体に分布しています。
特に腱や靭帯にはコラーゲンの量が多くなっています。

また、コラーゲンは骨の素でもあり、これにリン、カルシウム、マグネシウムが沈着して固い骨となります。
コラーゲンは内臓にも血管にも存在しており、人体の全たんぱく質量の20~25%を占めています。
コラーゲンはお肌のハリを保つ大きな役割を持つため、十分にたんぱく質を摂取する必要があります。

酵素として

生体内での大部分の化学反応を触媒する様々な酵素の本体がたんぱく質です。
そのため、たんぱく質は熱やpHによって変性を受けることから、酵素にはその活性のための至適温度や至適pHがあり、そこから大きく外れることによって酵素は変性を受けて失活します。

ホルモンとして

成長ホルモンやインスリン、オキシトシンなどのペプチドホルモン、甲状腺ホルモンであるアミノ酸誘導体ホルモンとして生体の恒常性維持に関与しています。

*ペプチドホルモン:たんぱく質ホルモンともいう。アミノ酸が結合してできるホルモン。

抗体として

免疫グロブリンと呼ばれるたんぱく質は、体外から侵入する細菌やウイルスを退治する役割を持つ抗体です。

体液の調節因子として

血液

血液は赤血球・白血球・血小板・アルブミン・グロブリンなど多くのたんぱく質が水分に溶けている液体です。血液中のたんぱく質の濃度は自律神経系と内分泌系の働きにより精密に調節されています。
毎日のたんぱく質摂取が足りないと十分なたんぱく質合成が行われず、血液中のたんぱく質が足りない状態(血液が水っぽい状態=たんぱく質濃度が低い状態)になります。

体液

たんぱく質は体液の酸塩基平衡の調節の役割を担っています。アミノ酸は両性電解質であることから,分子内にプラスとマイナスの両方の電荷を持っており、これによって血中の酸やアルカリを補足して中和する働きがあり,血液のpHを弱アルカリ性を保っています。

運搬物質として

たんぱく質は、酸素を運搬するヘモグロビン、脂肪を運搬するリポたんぱく質、鉄を運搬するトランスフェリンなどの本体となります。
このような運搬たんぱく質は、酸素やビタミンやミネラルなどの栄養素を全身に運び、体調を整える働きがあります。

エネルギー源として

たんぱく質は1gあたり4kcalのエネルギーを生じます。
通常、適切な栄養バランスで十分な食事摂取ができている場合には、たんぱく質がエネルギー源となることは少ないです。
しかし、糖質および脂肪の摂取量が少ない時や不足した時には、体たんぱく質の合成よりも優先的にエネルギー源(たんぱく質の異化)として利用されてしまいます。
特に大きな火傷や術後は代謝亢進が増加するので、貯蔵エネルギーの減少に加えて、筋たんぱく質の減少が有意におこります。
必要となるエネルギー量も増加しますが、たんぱく質の需要は多くなります。

焼肉の写真

たんぱく質の代謝

たんぱく質の代謝の特性として、食事誘発性熱産生が挙げられます。食事を摂取した後、安静にしていても代謝量が増えることです。
この代謝量の増加を食事誘発性熱産生(DIT:Diet Induced Thermogenesis)といいます。
DITはたんぱく質のみを摂取した場合は最も高く摂取エネルギーの約30%にも達します。糖質のみの場合は約6%、脂質のみの場合は約4%と言われています。
また、これらの通常の食事(注:1)の場合には約8%であると言われています。

(注:1=通常の食事とは、エネルギー産生栄養バランス(%エネルギー)が整っていることを指し、概ねの比率は、タンパク質:13~20%、脂質:20~30%、炭水化物:50~65%。)

消化と吸収

摂取したたんぱく質は、塩酸(胃酸)で変性し、ペプシンによりポリペプチドに加水分解されます。
十二指腸では、膵液中の消化酵素により、オリゴペプチド、トリペプチド、ジペプチドまで加水分解されます。
その後、小腸で各種のペプチダーゼによってアミノ酸に加水分解された後、門脈を経て肝臓に運ばれます。
肝臓に運ばれたアミノ酸は血中に放出されます。血中アミノ酸濃度の上昇は、筋肉などの組織で体たんぱく質の合成を促進します。
また、インスリンの働きによって組織へのアミノ酸吸収が高められるので、筋肉を増やすのには炭水化物の摂取も大切です。
食事制限等で血糖値が低くなると、肝臓で糖新生が促進されるので、体たんぱく質を分解したアミノ酸がエネルギーや糖新生の材料となります。

合成と分解

体重1㎏あたりのたんぱく質の合成は、新生児や乳児、幼児などの成長期に著しいのは言うまでもありません。
成人期は合成と分解の速度が釣り合った状態になり動的平衡状態を保っています。
傷害を受けたたんぱく質や不要なたんぱく質を分解するための分解機構があります。2016年にノーベル生理学・医学賞を受けた東京工業大学の大隅良典栄誉教授で広く知られるようになったオートファジーなどです。

たんぱく質の摂取量と方法

2020年版の「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)では、性別年齢別に以下のような基準を設けています。
実際的に献立を立てるときには三食毎に必ず良質のたんぱく質を摂り、1日のうちに成人(非妊婦・非授乳婦)であれば概ね体重1㎏あたり1.0~1.2gのたんぱく質を摂ることを推奨値としています。
具体的には体重60㎏の場合であれば60~72gのたんぱく質になります。
食品によって含まれるたんぱく質の量は異なりますが、肉や魚、卵など食品重量の1/5相当がたんぱく質と覚えておくと役に立ちます。
(詳細は文部科学省が開発した食品データベースが便利です。http://food.mext.go.jp/)

たんぱく質1日66g摂取の献立例。朝食はゆで卵、牛乳、食パン。昼食は豚フィレカツ、ごはん、豆腐の味噌汁。夕食は鯖の塩焼き、ごはん。
3食ともに副菜(野菜)を除いている。★野菜は1日350g摂ることを推奨しています。

たんぱく質の過剰摂取により関連が深いと考えられるのは腎機能の影響ですが、現時点では明確なエビデンスが出ていないので耐用上限量を設定されていませんが、現在のところ、総エネルギー必要量のたんぱく質の占める割合が35%未満であれば腎機能に影響を与えないとされています。(厚生労働省:「健康な者を対象としたメタ・アナリシス」2020年版の「日本人の食事摂取基準」p.113)

たんぱく質の食事摂取基準  (推定平均必要量、推奨量、目安量:g/日、目標量:% エネルギー)

たんぱく質の摂取量(年齢別、男女別)2020年版「日本人の食事摂取基準」

① 範囲に関しては、おおむねの値を示したものであり、弾力的に運用すること。
② 65 歳以上の高齢者について、フレイル予防を目的とした量を定めることは難しいが、身長・体重が 参照体位に比べて
小さい者や、特に 75 歳以上であって加齢に伴い身体活動量が大きく低下した者な ど、必要エネルギー摂取量が低い
者では、下限が推奨量を下回る場合があり得る。この場合でも、下 限は推奨量以上とすることが望ましい。
③ 妊婦(初期・中期)の目標量は、13〜20% エネルギーとした。
④ 妊婦(後期)及び授乳婦の目標量は、15〜20% エネルギーとした。
                     厚生労働省:2020年版「日本人の食事摂取基準」

美容に効くたんぱく質

私たち誰しもが、美しく生き生きとした人生をおくることを目指しています。
持って生まれた個性もありますが、それ以上に、その人の姿勢やしぐさ、肌の艶、髪の美しさが重要です。
それらの働きはたんぱく質から作られます。顔の輪郭を美しく形作る毛髪はケラチンというたんぱく質からなり、爪もケラチンです。
あらゆる組織の細胞は毎日新しく生まれ変わり肌細胞も生まれ変わっています。
肌細胞のターンオーバーを円滑に行うには食事由来のたんぱく質摂取とビタミンCや鉄が必須です。
コラーゲンは、スムーズに活動するための腱や靭帯、姿勢を保つ骨格に多量に存在しており、内臓にも血管にもあり、人体の全たんぱく質量の20~25%を占めていると言われる重要なたんぱく質です。

筋肉に効くたんぱく質

成人になると、たんぱく質は食事由来のたんぱく質と体たんぱく質の分解によるアミノ酸平衡を保っています。
食事由来のたんぱく質摂取の不足や全体的なエネルギーが不足すると、体たんぱく質の分解が進み、筋肉量が減ることになり、筋力トレーニングをしても筋肉の量を増やすことができません。
筋肉を増やしたい場合は、良質のたんぱく質摂取と、体内のたんぱく質をエネルギー源にしないように糖質や脂質をバランスよく配した食事が大切です。
また、たんぱく質の過剰摂取が2型糖尿病の発症リスクとなる可能性を示唆した研究結果もあります。1日のたんぱく質摂取量は必要総エネルギー量の20%程度とされていますが、35%エネルギー未満であれば、健康体の成人であれば腎機能の低下を招くことはないとする研究結果があります。
(「7.たんぱく質の摂取量と方法」の項を参照)

腎疾患のある方にはたんぱく質の過剰摂取は悪い影響があることが分かっていますので、筋肉量を増やすためのたんぱく質の摂取量は、主治医の指示に従いましょう。

フレイル予防に効くたんぱく質

高齢者におけるフレイルとサルコペニアは現在進行形で深刻な問題となっています。
フレイル(虚弱)とは、①体重減少②主観的疲労③日常生活量の低下④身体能力(歩行速度)の減弱⑤筋力(握力)の低下の5項目のうち3項目があてはまれば「フレイルとする」定義があります。
サルコペニアは加齢に伴う筋力の減少で、この病態はフレイルと関連が強いため、転倒予防や介護予防の観点からも重要視されています。
高齢者は若年者や中年成人に比べて、食後(たんぱく質摂取後)に誘導される筋たんぱく質合成の反応性が低下しているため、同化抵抗性が存在すると言われており、その結果、高齢になるほど筋肉量の減少や筋力の低下がみられます。
したがって、健康な高齢者には多くのたんぱく質が必要とされるとの研究があります。それぞれの研究で、適切なたんぱく質の摂取量に差はみられますが、1日当たりのたんぱく質の摂取量を概ね体重1㎏あたり1.0~1.5gとしています。
高齢者の中には旧来の栄養学で「卵のコレステロール」を悪玉にしていますが、安価で調理のしやすい卵を見直して欲しいものです。
(「アメリカのコホート研究では、たんぱく質摂取量を20%増やすとフレイルの発症率を30%下げると予想できるとしている。」厚生労働省:2020年版の「日本人の食事摂取基準」)

ざるに入った卵
卵は安価な良質のたんぱく源

心に効くたんぱく質

メンタルに問題を抱えている人たちにみられるのが、食生活の乱れです。
毎日毎回インスタントの焼きそばしか食べない、野菜は全く食べないなどの事例がみられます。
臨床的に栄養が精神に及ぼす影響の研究が進んできています。
つまり、神経伝達物質が栄養素の偏りと不足によって体内で産生されないということが分かり始めています。
神経伝達物質である、ドーパミン、アセチルコリン、セロトニン等々は数種のアミノ酸で産生される物質です。
良質のたんぱく質を摂るだけで、メンタル面が改善するという単純なことではありませんが、バランスの欠いた食事は疾病を招くだけでなくメンタルにも影響を及ぼすものであることを知っておく必要があります。

参考資料:厚生労働省:2020年版「日本人の食事摂取基準」および「Eヘルスネット」