基礎からわかる【高血圧】気をつけたい生活習慣
著者 プロフィール
加藤里奈
一般社団法人健康栄養支援センター 理事/副会長
医療福祉栄養研究部コーディネーター
管理栄養士
Contents
高血圧とは
高血圧とは、血圧が正常範囲を超えて高く維持されている状態をさします。
血液が血管の中を通るときに、血管にかかる圧力のことを血圧といいます。
心臓は、ポンプのように毎分60~70回ぐらい、血液を血管へと押し出しており、心臓が収縮して血液を押し出した瞬間は、血管に最も強く圧力がかかります。これが収縮期血圧(最高血圧)です。そして、収縮した後に心臓が広がる(拡張する)ときには、圧力が最も低くなります。これが拡張期血圧(最低血圧)です。収縮期血圧と拡張期血圧のどちらが高くても、高血圧といいます。
2019年1年間の死因別死亡総数のうち、高血圧性疾患による死亡数は9,548人となっています(厚生労働省発表の「令和元年人口動態統計月報年計(概数)の概況」)。世界保健機関(WHO)の調査によると、25歳以上で高血圧と診断される人は、2008年に世界で10億人を超えたと発表されました。このことから、25歳以上の3人に1人が高血圧であると推測されています。
高血圧の種類
・本態性高血圧⇒原因の不明なもの。血圧が高くなる他の病気やホルモンの異常がない高血圧のこと。
日本人の高血圧患者の約90%がこのタイプ。原因ははっきりとはわかっていませんが、遺伝的な要素や生活習慣が関係していると考えられます。
・二次性高血圧⇒他の病気や、薬が原因となって起こる高血圧のこと。原因となる病気を治療したり薬を変更したりすることで、多くが改善します。二次性高血圧を引き起こす病気としては、腎臓の病気、甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモンの異常、動脈障害などがあります。
そのほかに、妊娠時に起こる妊娠高血圧症候群、病院や診療所で計った場合だけ血圧が高くなる白衣高血圧、早朝に血圧が高くなる早朝高血圧、などもあります。
また、塩分の影響を受けやすいタイプ(食塩感受性高血圧)と、そうでないタイプ(食塩非感受性高血圧)とがあるといわれています。
食塩感受性高血圧の場合、心臓や血管などにかかる負担が大きく、食塩非感受性高血圧と比べて、心臓病や脳血管障害を発症するリスクが2倍以上になることが指摘されています。
高血圧の診断基準
日本人の収縮期(最高)血圧の平均値は男性 134.7mmHg、女性 127.9mmHg であり、収縮期(最高)血圧が 140mmHg 以上の者の割合は男性 36.2%、女性 26.0%となっています。
どちらも、この 10 年間でみると、男女とも有意に減少しています。(平成30年国民健康・栄養調査)
症状
ほとんど自覚症状がありません。
人によっては、肩こりやめまい、頭痛、動悸、息切れなどが出ることもありますが、すべての人に出るわけではありません。
高血圧を放置すると
血圧が高い状態が続くと、やがて心臓や腎臓など全身に様々な障害がおこります。
まず影響が出るのが血管で、常に高い血圧にさらされることで、血管の壁が厚く硬くなり、しなやかさを失って、血液の流れが悪くなってしまいます(細動脈硬化)。すると心臓はより強い力で血液を押し出すことになり、ますます血圧が高くなるという悪循環に陥ります。
しかし、このような状態になっても自覚症状が出にくいためそのまま障害が進んでいくと、命に関わるような重大な合併症(心筋梗塞・脳梗塞など)を招く恐れもあります。そのため、高血圧は、「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」とも呼ばれます。
血圧と合併症の関係を調べた研究の一例を下記に示します。
福岡県の久山町で行われた調査研究で、住民を血圧の高さでいくつかのグループに分け、長年、追跡調査したものです。
血圧が高いほど、脳卒中の危険が高いことが明らかになりました。
血圧上昇につながりやすい要因
加齢やストレス、遺伝による体質などの他、食生活では、塩分の摂りすぎ、過度のアルコール摂取が挙げられます。
生活面では、睡眠不足、日常の運動不足などがあります。肥満や過体重、動脈硬化などの症状も関わります。
外気温の急変(入浴時の脱衣やいきなり熱いお風呂に入ったとき、冬季に暖かい室内から外出するときなど)のような、温度の変化も重要です。
高血圧を予防するには?
高血圧は、生活習慣の影響が大きいため、それを改善することで予防が可能です。
中でも食生活、特に減塩が重要になります。
①減塩
目標量:成人男性7.5g/日未満、成人女性6.5g/日未満
※高血圧及び慢性腎臓病(CKD)の重症化予防のための食塩相当量の目標量は男女とも6.0g/日未満
(厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」より)
日本人の食塩摂取量の平均値は 10.1g 、男女別にみると男性 11.0g、女性 9.3g であり、近年減少傾向ではあるものの、まだまだ多い状況です。
塩(塩化ナトリウム)の摂り過ぎは以下のような理由で、血圧を上昇させるように働きます。
①血中のナトリウム濃度が高まると、それを薄めようとして体内から水が血管に移動します⇒血流量が増えます⇒増えた血液を循環させるため、心臓により強い力が必要になるのです。
②過剰に摂取したナトリウムは血管壁にも入り込み、同時に水分も取り込むので壁が厚くなり、血液の通り道が狭くなってしまいます。
③ナトリウムは血管を収縮させ心拍数を高めるよう交感神経を刺激します。
減塩のポイント
減塩のポイントとしては、以下のようなものが挙げられます。
・食品中の食塩量を知る 食品の栄養成分表示を見るようにましょう。食塩量やナトリウム量として記載されています。
食塩は、以下の式で求められます。
ナトリウム量(mg)×2.54÷1000=食塩相当量(g)
・薄味にする だしの利用や、新鮮な食材、酸味・香辛料・香り・香ばしさ・油脂などを生かすことで減塩でも食べやすくなります。
・塩分の高いものに注意
加工品(ハム類・練り物など)、漬物、インスタント食品 など
・調味料はかけるよりつける⇒全体にまんべんなく味が行き渡るよりも直接舌の上で感じる方が満足感が高く、使用量が少なくて済みます。
・減塩調味料の利用 ※ナトリウムの代わりにカリウムを使用するものが多いので、腎疾患がある場合(カリウムの排泄がうまくいかず腎臓に負担をかけてしまうため)は医師と相談しましょう。
・麺類の汁(特に外食やインスタント食品)はなるべく残しましょう。⇒インスタント麺では汁と合わせると5~6gの塩分が含まれるため。
②野菜や果物を摂る
これらは、余分なナトリウムを排泄してくれるカリウムが豊富。食物繊維やビタミン・ミネラルも多く含まれます。
カリウムには、他にも、交感神経の抑制、血管拡張及び昇圧反応抑制、などの働きがあるとされます。
カリウムの目標量は、18歳以上では、男性3000mg/日以上、女性2600㎎/日以上 (厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」より)
③豆類、乳製品、藻類を摂る
これらには、カルシウムやマグネシウムというミネラルが多く含まれます。
カルシウム(Ca)⇒ 交感神経の活動低下やCa依存性のホルモンによるNa利尿作用があります。血中のCa濃度が上昇すると、最終的に血管平滑筋細胞の収縮抑制を引き起こし、末梢血管抵抗を低下させます。
マグネシウム(Mg)⇒ 体内Mg含有量が低下すると、最終的に血管平滑筋の収縮を促し、末梢血管抵抗を増大させ、血圧上昇を引き起こします。
④魚を摂る
魚油に含まれるEPAやDHAには、血栓の生成防止、血管内皮細胞の機能改善 などの作用があります。
⑤適正体重の維持
BMI(体重(kg)÷[身長(m)×身長(m)])は、体格指数といい、やせや肥満の目安になります。
日本肥満学会の定義では、18.5未満を「やせ」、25以上を「肥満」としています。
目標とする範囲は以下とされています。
【目標とするBMIの範囲(18歳以上)】
18歳~49歳 18.5~24.9
50歳~64歳 20.0~24.9
65歳~74歳 21.5~24.9
75歳以上 21.5~24.9
⑥禁煙
タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させて血圧を上げます。 喫煙後は手足の血液の流れが悪くなり、指先の体温が下がったりします。
また、喫煙時に血液中に取り込まれる一酸化炭素は、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などの発症と深く関連していると言われています。
⑦節酒
長い間、飲み続けると、血圧を上げ、高血圧症の原因になると考えられています。多くの研究で、日々の飲酒量が多いほど血圧の平均値が上がって、高血圧症になるリスクも高まることがはっきりしてきました。
適量としては、純アルコール量で約20g/日とされています。
(例:日本酒180ml・ビール500ml・ワイン200ml・焼酎70ml・ウイスキーダブル60ml)
一般的に女性は、男性に比べてアルコール分解速度が遅いため、男性の1/2~2/3程度の飲酒が適当であると考えられています。
⑧運動
運動を継続すると血圧が5~10(mmHg)改善するという報告があります。
ウォーキング、ストレッチ、軽いジョギングなど、軽い有酸素運動を1日30分以上を目標にしましょう。
とはいえ、なかなかそんな時間が取れない方もおられると思います。
普段の生活の中でも、少し心掛けることで身体活動量は増やせます。
掃除や洗濯のような家事など、日常生活でこまめに体を動かすだけでも消費カロリーが上がります。
通勤時に一駅歩く、エレベーターに乗らない、自動車をなるべく使わない、などのひと工夫をしてみましょう。
人は血管から老いるともいわれます。
いつまでも健康な血管を守っていくために、できることから始めてみましょう!
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