保育園・幼稚園における食育計画の留意点

著者:食育・地域栄養研究部:コーディネーター 田中美智子
編集:日下千代子

食育活動は栄養士の職能のひとつ

栄養士の役割として「食育」は重要なものです。
対象者のライフステージ、疾病の有無に関わらず個人に対してでも、集団に対してでも食育活動はかかせないものと言えます。

栄養指導は、健康の維持や増進は言うに及ばず疾病の予防、治療、重症化予防に加えて介護予防、虚弱支援をするためのものです。
生涯をとおしてその人らしく生き、生を終えることができるように支援することが大事です。

食習慣や味覚は幼少時に決定されることが多いという研究も散見されます。
その真偽のほどは別として、子どもたちの食生活を豊かにしようと努力している保育園、幼稚園に栄養士として保育士・教員の方々と協働で効果のある食育をしたいと望んでおられる方の参考になるヒントをあげてみます。

幼児期は「食」の体験を広げる

幼稚園児の芋ほりの様子

幼児期は「食」の体験を広げることで「食べる力」を養うことができます。
「食べる力」とは、食べることに意欲を持つことで、お腹がすくリズムを作る(食事や間食の時間を決める)ことや、家族をはじめ、他の園児たち、先生方と一緒に食べる楽しみを持つことです。
これらの体験で食べることが楽しいという気持ちが出てきて、「食べる力」につながります。
また、食体験でもっとも大事なことが「食べたいもの」や「好きなもの」が増えることです。
自我が芽生え始めた幼児期は食べ物の好き嫌いが顕著に出てくることが多くなります。
自我は成長の過程の一つですが、野菜を食べない、ハンバーグと唐揚げは大好きなど好みがはっきりしてきます。
このような偏食は周りの大人を困らせます。しかし、食べ物に興味を持ち始める時期でもあります。
多くの園が実施している、野菜のプランター栽培、芋ほり、簡単なおやつ作りなどを経験することで、食べ物、食べることに興味を持つようになります。
園児たちが収穫した大根を給食に出すと、大根が嫌いであった園児が食べたという話はよくあります。これらのことが食体験を広げることになり、「食べる力」を育むことになります。

幼児期の「食べる力」とは

幼児二人が調理をしている

幼児期はすでにお腹がすくリズムができており、1日3回の食事と1日1回もしくは2回の間食の食事のリズムを持っています。
食べたいもの、好きなものが増えていき、それに伴い野菜嫌いなどが出てきます。食べる量を自分で調節できるようになるのもこの時期で味覚も発達してきます。
家族や仲間と一緒に食べることで、よく噛んで食べること、食事のマナーなどを学んでいきます。

園や家庭でのプランターでの野菜の栽培体験は自然との関りを知ることになり、芋ほりなどは地域の人との交流を育みます。
そして、調理の体験は食べ物に触れることで食材の変化に関心を持つこととなります。

「食事のリズムを持つ」「一緒に食べる人から食べ物について学ぶ」「食べ物にふれる」は、幼児期に習得できることでこの三つが「食べる力」を育てることになります。

この食べる力をつけることの方法として「食育」をそれぞれの園で食育計画をたて、実施しています。食育計画も年間プログラムを作成し、保護者、保育士、教員そして園児の喜ぶもの、望む結果を出せるものにする必要があります。

PDCAサイクルの手法をもちいる

栄養指導によく使われる手法として、PDCAサイクルがあります。これを食育にも応用します。

アセスメントの後から導き出された目標の設定を具体的な計画に落とし込みます。
その計画のもとに実施(Do)します。ついで、計画通りできたか目標は達成できたかを評価(Check)します。その評価から見直しと改善を(Act)おこない次の計画(Plan)に活かします。

PDCA図

栄養計画の作成

Plan:計画作成には、アセスメントの後、目標を設定し、計画を作成します。アセスメントは厚生労働省、市区町村などの既存のデータの収集と自園のデータで実態を把握・分析して栄養課題を抽出します。
自園のデータの集め方は、保護者、保育士などに「食」に関するアンケートの実施、個別インタビュー、フォーカスグループインタビューなどがあります。
また、園児の給食やおやつの喫食状態(残菜など)、給食時(咀嚼ができているか、食事の時の姿勢など)や他の園児と遊んでいるときの行動などを観察・分析する方法もあります。

これらの資料が出そろい、保護者、保育士の協力を得ながら、栄養課題解決の優先順位を決め自園の環境に合う実効のある目標設定を決めます。
この時の話し合いにはKJ法(注)を取り入れると作業を効率よく進めることができます。

目標の設定は、学習者は何歳児なのか、園全体なのかを決めます。学習者の発達度に応じた学習プログラム案を作成します。
学習の形態や方法など具体的に決めていきます。ここで重要なのは、園児たちにどのような好ましい結果を残したいかを決めておくことです。
そして、この段階で学習プログラムの終了後の評価プログラムも作成します。

Do:実施時の留意点はプログラムが計画通りに実施されたかどうかです。実施者のスキルによるところが大きいので複数の実施者がいるときには実施の前に知識と技術の共有を図っておくことも大事なことです。

Check:学習する目標や行動が達成されたかどうかを振りかえります。しかし、学習目標と学習行動は達成したにもかかわらず望んだ結果や目標がでない場合もあるので、結果目標の達成度の評価は重要です。

Act:改善点を抽出し、次の計画に進みます。ここでの注意点は、計画そのものが望ましい結果をだせるものであったかどうかの根本の見直しをせざるをえない場合があるかもしれないということです。
その時はアセスメント、自園の環境、園児の特徴を把握・分析しなおすことが求められます。また、指導者の食育に対する理解度の把握・分析も必要です。

栄養計画作成のポイント

栄養計画は、協働する保育士、共感してもらう保護者、当事者である園児たちに栄養士の考えと思いを伝えるために重要です。
それは、自分の考えを「見える化」つまりドキュメントに落とし込むことで、共通理解ができ目標達成までの道筋がわかります。
園児たちに接するときにも自分で内容を明確に把握することで、余裕をもって接することができます。

食育計画書のシートは各自治体で作成したものをホームページ上で開示しています。具体的な事例紹介も豊富にありますが、自園の子どもたちと保護者・保育士・教員たちの思いを受けとめ連携をとりながら、進めることがもっとも重要といえます。

注:川喜田二郎氏が考案したデータや問題点をまとめるための手法で、データや問題点をカード(ポストイットが便利)に記述し、それをグルーピングし課題の抽出や問題解決の方法を見つける手法。

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