栄養素シリーズ 第6回 ミネラル

一般社団法人健康栄養支援センター
医療福祉栄養研究部
管理栄養士:日下千代子

ミネラル(無機質)とは

ヒトの構成元素をみると、酸素、炭素、水素、窒素の4つでヒトの身体の96%以上を占めます。これらの元素は、水、たんぱく質、脂質、炭水化物を構成しているので多いのは当然といえます。残りの4%がミネラル元素です。生体組織を燃やした時に灰分として残るものです。
人体の無機質のうち、カルシウム(Ca)、リン(P)、カリウム(K)、硫黄(S)、ナトリウム(Na)、塩素(Cl)、マグネシウム(Mg)の7種が特に多い無機質で、酸素、炭素、水素、窒素とあわせて11種の元素を主要元素と言い、からだの99.8%を構成しています。残りは鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ヨウ素(I)、セレン(Se)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、フッ素(F)、モリブデン(Mo)などです。非常に量が少ないので微量元素と言います。微量元素はまだまだ他にもあります。見つかっている微量元素は50種以上とも言われており、ヒトにとっての必要性が分かっていないものもあります。
生体の浸透圧が一定に保たれるのは、主に無機質イオンが調節しています。無機質は、内外の浸透圧が等しくなるよう絶えず体液の濃度を調節する重要な働きをしています。

無機質の存在形態
生体の無機質元素はつぎのような形で存在しています。

  1. 無機塩
    骨や歯のリン酸カルシウム、炭酸カルシウムのような無機塩があり、量的にもっとも多いもので、無機質として分かりやすい形です。
  2. 遊離イオン
    体液にNa⁺、K⁺のように遊離イオンとして溶け込んでいるものがあります。
  3. 有機化合物と結合
    ヘモグロビンのFe、ビタミンB₁₂のCo、含硫アミノ酸のSなどです。
  4. その他
    同じ種類の無機質元素でも、塩の形をとるものや有機化合物を構成するなどさまざまです。

多量ミネラル
◇ナトリウム(Na
細胞外液の主要な陽イオン(Na⁺)で、細胞外液量を維持しています。浸透圧、酸、塩基平衡の調節に重要です。胆汁、膵液、腸液などの材料で、通常の食事をしていれば不足することはありません。
主に小腸で吸収され、損失は皮膚、便、尿を通して行われ、90%以上は腎臓経由による尿中排泄です。健康なヒトであれば、ナトリウムの摂取量が多くなれば尿中排泄量が増加し、摂取量が減少すれば尿中排泄量も減少します。
腎臓外の代表的な調節の仕組みとしてはレニン-アンギオテンシン-アルドステロンなどがあります。
ナトリウムの摂取量は、国民健康・栄養調査によると不足することはほとんどなく、むしろ過剰摂取が問題となっています。
しかしながら、近年の気候変動による猛暑が続く夏季は、熱中症対策の水分補給には少量の食塩添加が必要とされていますが、個人差が大きいとされています。
ナトリウムは、通常NaClとして摂取していますが、各種のナトリウム化合物の形で様々な食品に含まれています。加工食品などにも多く含まれているので注意が必要です。
ナトリウムの過剰摂取と生活習慣病やがん(特に胃がん)の関係については、多くの報告があります。
2012年のWHOのガイドラインは成人に対し要望している食塩相当量は5g/日未満です。しかし、我が国の習慣的な摂取量として5g/日未満を満たしているものは非常に少ないと判断した結果、目標値を平成28年国民健康・栄養調査における摂取量の中央値との中間値をとったものを目標値としています
健康な成人男性は7.5g/日未満、健康な成人女性は6.5g/日未満としています。
生活習慣病の重症化予防については、それぞれ各学会や厚生労働省のガイドラインに準拠してください。
目標量等の活用に当たっては以下のようなことに注意する必要があります。ナトリウムが血圧の上昇に関与していることは確実で、カリウムはナトリウムの排泄を促し血圧の上昇をおさえる方向に働きます。ナトリウムとカリウムの摂取比も重要です。DASH食等で、ナトリウムとカリウムの比の摂取比を下げることが、ナトリウムの摂取量を減らすことやカリウムの摂取量を増やすことよりも、降圧効果があると示されています。
しかし、現時点では、具体的なナトリウムとカリウムの摂取比を示すことは難しいようです。
なお、食欲低下のある高齢者に対しては、極端な減塩食は食欲の低下を招くことがあります。減塩食により食欲低下がみられると、フレイル発症につながることが考えられますので、健康状態や病態と摂食量全体をみながら、柔軟な対応が必要です。

◇カリウム(K)
カリウムは野菜や果物などに多く含まれていますが、加工や精製度が進むと含有量は減少します。
カリウムは細胞内液の主要な陽イオン(K⁺)で、体液の浸透圧を決定する重要な因子です。酸・塩基平衡を維持する作用があります。また、神経や筋肉の興奮伝導にも関与しています。
健康なヒトは、下痢や多量の発汗、利尿剤の服用の場合以外にカリウムが不足することはほとんどありません。
前述したように、ナトリウムの尿中排泄を促すカリウム摂取が重要とされており、血圧低下、脳卒中予防につながることが研究により示唆されています。
カリウムの吸収は小腸で受動的に行われ、回腸や大腸では能動的に放出されます。下痢が続くと大腸からのカリウムの分泌量が増加して低カリウム血症になります。
高血圧を中心に生活習慣病の発症予防の観点から目標量が設定されていますが、カリウムは多くの食品に含まれており、通常の食生活で不足になることはほとんどないといわれています。
過剰摂取のリスクは少ないと言われていますが、腎機能に問題がある場合は、カリウムの多い野菜は茹でこぼしてカリウムを少なくするなどの配慮が必要とされています。また、カリウムのサプリメントを使用していると過剰になる可能性がありますが、腎機能障害がない場合は普通の食生活であれば過剰摂取になる可能性は低いと考えられます。したがって耐容上限量は設定されておらず目標値のみとなっています。
高血圧の重症化予防には、より多くのカリウム摂取が推奨されています。2018年のACC、AHA他の治療ガイドラインでは、カリウム3,500~5,000㎎/日が、摂取目標と示されています。

◇カルシウム(Ca)
カルシウムは身体の中でもっとも多い無機質です。成人では体重の2%程度になります。このうちの99%はリン酸カルシウムや炭酸カルシウムの形で骨や歯を形成しています。これ以外のカルシウムは血液などの細胞外液、神経・筋肉・臓器などに分布しています。これらの軟組織では主にCa²⁺の形になっています。
よく知られていることですが、フィチン酸やシュウ酸はCaと不溶性の塩をつくるためCaの吸収を妨げます。
カルシウムの欠乏により、骨粗鬆症、高血圧、動脈硬化などを招くことがあります。
カルシウムの過剰摂取によるものとして、高カルシウム血症、高カルシウム尿症、軟組織の石灰化、尿路結石、前立腺がん、鉄や亜鉛の吸収障害、便秘などが生じる可能性があります。
経口摂取されたカルシウムの吸収率は、成人で25~30%程度とされており、年齢や妊娠・授乳、その他の食品に影響されることが知られています。なお、ビタミンDはカルシウムの吸収を促進します。
カルシウム量が適切かどうかの判断は、摂取量、腸管からの吸収率、骨代謝、尿中排泄などを鑑みることが重要です。
カルシウムの摂取量と骨量、骨密度、骨折との関係を検討した疫学研究では、骨量と骨密度の関係は多く認められています。骨折との関連を検討した研究では、日本では認められるとの報告がありますが、世界各地の研究をまとめたものでは、摂取量と骨折発生率の間に意味のある関連は認められなかったとする報告もあり、一致していません。
「日本人の食事摂取基準2020年版」では、推定平均必要量を成人男性30歳以上の場合で600㎎、成人女性30歳以上で550㎎、推奨量は男性で750㎎超、女性で650㎎超となっています。
過剰摂取については、上述した通りなので、最低健康障害発現量を3,000㎎とし、耐容上限量は2,500㎎としています。サプリメントやカルシウム剤を摂る場合は注意する必要があります。また、ビタミンDとの併用による場合は、より少ない摂取量でも血清カルシウムが高値を示す場合があります。

◇マグネシウム(Mg)
マグネシウムは、成人体内には約25g程度存在しています。その大部分はMg(HCO₃)₂として、骨や歯を構成しています。他はたんぱく質と結合して細胞内に分布しています。
マグネシウムが欠乏すると、腎臓からマグネシウムの再吸収が亢進します。骨からマグネシウムが遊離して利用され、低マグネシウム血症になります。その症状は吐き気、嘔吐、眠気、脱力感、筋肉の痙攣、ふるえ、食欲不振などがあります。長期にわたる場合は、骨粗鬆症、心疾患、糖尿病のような生活習慣病のリスクをあげることが示唆されています。しかし通常ではその欠乏によると断定するには、さらなる研究が必要とされています。
マグネシウムの過剰摂取によって下痢症状があらわれることがあります。下痢の発症を生体指標として耐容上限量を決める指標とされています。通常の食事からの食品の耐容上限量は設定していませんが、サプリメント等、通常の食品以外からの摂取量の耐容上限量を成人の場合350㎎/日、小児の場合は5㎎/日としています。
マグネシウムの降圧作用が報告されている研究がありますが、科学的根拠が十分でないので、サプリメント等の摂取は推奨されていません。
糖尿病に関しては、日本人以外の研究で発症が有意に低くなった研究があります。今後、日本人を対象にした研究が必要とされています。

◇リン(P)
リンは成人体内では、約600g含まれており、カルシウムについで多いミネラルです。リンの80%程度はCa塩やMg塩として、骨や歯を作っています。残りは、筋肉・神経・脳や臓器などに広く分布しています。これらの軟組織では、核酸、ヌクレオチド、リン脂質、リンたんぱく質など、生理的に重要な有機化合物にリン酸エステルとして含まれています。血液などの体液にリン酸イオンとして、緩衝作用に役立っています。
リンは、カルシウムとともにハイドロキシアパタイトとして骨格を形成し、ATPの形成、それ以外の核酸や細胞膜リン脂質の合成、細胞内リン酸化を必要とするエネルギー代謝等に必須の成分です。
腸管におけるリンの吸収の大部分は受動輸送と考えられ、消化管で吸収される一方で、消化管液としても分泌されています。
血清リン濃度を規定しているのは、腎臓での再吸収で、PTHとFGF23がリンの再吸収を抑制し、血清リン濃度を調整しています。
リンは多くの食品に含まれているため、通常の食事では不足することはほとんどありません。
リンの過剰摂取による研究や、高リン摂取や低カルシウム/リン比の食事摂取との骨量減少の関連についての研究は充分でないため、耐容上限量は算定されていません。
また、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病等についての研究も充分でないため、生活習慣病の発症予防および重症化予防についての十分な研究は今のところ報告されていません。したがって、目標量の策定も設定されていません。

微量元素
◇鉄(Fe)
鉄は、成人体内に5~6g程度存在しています。約70%はヘモグロビンのヘム鉄として体内に酸素を運ぶ重要な働きをしています。他の鉄はたんぱく質の結合体として分布しています。
鉄の欠乏は貧血や運動機能、認知機能等の低下を引き起こすことがあります。月経血で失われることや妊娠・授乳中の需要増大が必要量に影響します。
食品中の鉄は、たんぱく質に結合したヘム鉄と無機質の非ヘム鉄に分けられます。
鉄は十二指腸から空腸上部で吸収されます。ヘム鉄は2価鉄イオンとポルフィリンに分解され、非ヘム鉄は鉄還元酵素やアスコルビン酸(ビタミンC)などの還元物質により2価鉄イオンになります。
多くの血清鉄は、骨髄で赤芽球に取り込まれて赤血球の再生に利用されます。
約120日の寿命を終えた赤血球はマクロファージに貪食され、再度ヘモグロビン合成に利用されます。鉄が充分に足りているときは、フェリチンとして貯蔵されますが、その一部は腸管上皮細胞の剥離にともなって消化管に排泄されます。
健康保持増進のためには、欠乏と過剰摂取を回避しなければなりません。「日本人の食事摂取基準2020年版」では、日本人を対象とした研究が少ないため、必要量等は海外の研究成果や食事摂取基準を参考にしています。
鉄欠乏状態では、カルシウムの摂取が適正であっても骨吸収が高まり、骨の健康に影響を及ぼすことが知られています。しかし、この影響は鉄欠乏がもたらすものなので、目標値(下限値)は決められていません。
過多月経の成人女性・女児に対する場合、国民健康・栄養調査からは不足することが考えられるので、医療機関を受診し、基礎疾患の有無を確認したうえで、必要な鉄補給を受ける必要があります。
過剰摂取によって体内に蓄積した鉄が酸化促進剤として作用し、組織に炎症をもたらします。鉄の過剰摂取が生活習慣病の発症リスクを高めるというメタ・アナリシスがあり、これについての報告が増えています。
過剰摂取については、鉄サプリメントの使用による高齢女性の疫学研究で、総死亡率を上昇させることが認められています。また、鉄の蓄積が多くの慢性疾患の発症を促進することも報告されていることから、耐容上限量が設定されています。
鉄の過剰摂取については充分に注意する必要があります。

◇亜鉛(Zn
亜鉛は、成人体内に2g程度存在しています。主に骨格筋、骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓などです。亜鉛の生理機能は、たんぱく質との結合で発揮され、触媒作用と構造の維持作用に大きく分かれます。
亜鉛欠乏の症状としては、皮膚炎、味覚障害がよく知られています。その他に慢性下痢、免疫機能障害、成長の遅延、性腺発育障害などがあります。
日本で報告されている亜鉛欠乏症は、亜鉛非添加の高カロリー輸液をした時や低亜鉛濃度の母乳を与えた時などにおこります。
亜鉛の欠乏を回避するために、推定平均必要量と推奨量が設定されており、耐容上限量が策定されています。
平成28年国民健康・栄養調査で、通常の食事摂取で過剰摂取が生じることはないと言われています。ここでも、サプリメントや亜鉛強化食品の不適切な利用による過剰摂取の可能性が指摘されています。
亜鉛は献立ごとに摂取量の増減がみられることが多いですが、1~2週間の範囲内で十分な摂取をめざすようにすれば良いようです。

◇銅(Cu)
銅は成人体内に70~100㎎程度存在し、細胞や組織に広く分布しています。そのうち65%は筋肉や骨に、約10%は肝臓に分布しています。
銅は、鉄の吸収や貯蔵のために必要な必須ミネラルです。不足するとヘモグロビンの合成が進みません。また、銅酵素系のチトクローム酸化酵素、スーパーオキシドジムスムターゼ、ポリフェノールオキシダーゼなど様々な酵素の活性中心となっています。
銅の恒常性は、吸収量と排泄量によって調節されています。
後天的な銅欠乏症には銅の摂取不足によるものがあります。銅非添加の高カロリー輸液や経腸栄養剤の投与で発生しています。
欠乏を回避するために、推定平均必要量と推奨量を策定し、通常の食生活で過剰摂取は生じることは稀ですが、成人男女では耐容上限量を決めています。サプリメントの不適切な利用によるものには注意が必要です。
生活習慣病の発症予防や重症化予防に銅の摂取は有効とのメタ・アナリシスは見当たりませんが、不足した場合の、免疫機能の低下や不整脈が生じたという報告はあります。

◇クロム(Cr)
クロムは尿・毛髪に多く含まれています。糖質、脂質代謝に必須のミネラルです。インスリン作用を助ける働きをしますので、欠乏すると耐糖能が低下します。一方、動物実験では低クロム飼料を投与しても糖代謝異常は観察されず、クロムは必須栄養素とする根拠はないとの報告があります。しかし、定説に至っていませんので、必須栄養素とすることを「日本人の食事摂取基準2020年版」に記されています。
6価クロムを過剰に摂取すると、腎臓、脾臓、肝臓、肺、骨に蓄積し毒性を発します。しかし、6価クロムは人為的なもので、自然界にはほとんどないため、通常の食生活では問題ないと思われます。
生活習慣病の発症予防や重症化予防について、糖尿病患者には、効果があるとされてる報告もありますが、栄養管理は、専門医のもとで管理・実施されるべきことなので、安易にサプリメントの使用は引かえた方が良いでしょう。

◇ヨウ素(I)
ヨウ素は成人体内に約25㎎存在し、チロキシン(甲状腺ホルモン)の構成成分です。不足すると甲状腺肥大を起こし、新陳代謝が低下して発育に影響を与えます。70~80%が甲状腺にあります。
ヨウ素を含む甲状腺ホルモンは、胎児の脳、末梢神経、骨格などの発達と成長を促す働きをします。
慢性的な不足は、甲状腺刺激ホルモンの分泌亢進、甲状腺の異常肥大や過形成(甲状腺腫瘍)を起こして、甲状腺機能を低下させます。
妊娠中のヨウ素欠乏は、死産、流産、胎児の先天性異常や胎児甲状腺機能低下を招きます。重度の場合は、精神遅滞、低身長、ろうあ、痙直等を起こします。
日本人のヨウ素摂取量は欧米人と比べて特異的なので、欧米の研究結果を参考にするのは問題と「日本人の食事摂取基準2020年版」では述べていますが、欧米の研究結果に基づいた、推定平均必要量と推奨量を算定しています。
日本人のヨウ素摂取はヨウ素添加の食卓塩でなく、食品からのため通常の食生活において過剰障害が認められにくいですが、耐容上限量は日本人を対象にした実験と食品のヨウ素吸収率で策定されています。
日本人の食生活は、高ヨウ素摂取です。献立の分析、尿中ヨウ素濃度の測定、海藻消費量から、場合によっては10㎎/日程度の高ヨウ素摂取がみられます。しかしながら、全体的にみて食事調査等から平均して1~3㎎/日と推定しており、耐容上限量は逸脱することがほとんどないと推定されています。
しかし、日常的にヨウ素を過剰摂取すると、甲状腺でのヨウ素の反応が阻害され、甲状腺へのヨウ素輸送が低下することがあります。したがって、ヨウ素の摂取については耐容上限量を設定しています。
ヨウ素の生活習慣病の発症予防や重症化を検討した報告はないため、予防のための目標量は設定していません。

◇セレン(Se)
セレンは成人体内に約40~60㎎、過酸化物の還元酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼの活性中心となっています。生体の抗酸化作用に重要な元素で、ビタミンE作用を補完する働きがあります。
不足すると筋委縮、皮膚の乾燥・剥片状、心筋障害などが起こる報告があります。
食品中のセレンは約90%程度吸収され、セレンの濃度は、尿中排泄によって調節されていると考えられます。
魚介類はセレン含有量が高く、日本人は比較的魚介類の摂取が多いですが、通常の食生活では過剰摂取が生じる可能性は低いと思われています。ただし、不適切なサプリメント使用は過剰摂取が生じる場合があります。
生活習慣病の発症予防や重症化予防にセレンが寄与するという報告は少なく、ほとんどが海外の報告です。
日本においては平均的に十分なセレン摂取量が見込まれるので、通常の食生活では不足や過剰は起こらないといえます。

◇マンガン(Mn)
マンガンは成人体内に約10~20㎎存在します。その25%は骨にあり、残りは生体の組織と臓器に一様に分布しています。酵素活性化作用があり、骨の形成を促します。不足すると骨の発育や生殖能力の低下を引き起こすことがあります。
マンガンは完全静脈栄養施行患者において補給が必要な栄養素の一つとされています。しかし、投与法を誤ると中毒が発生し、パーキンソン病様の症状があらわれます。この症例は食事由来ではありませんが、過剰摂取による健康障害は無視できないので、耐容上限量が設定されています。
マンガンは、穀物や豆類などの植物性食品に多く含まれています。厳密な菜食主義(ビーガン)などの特異な食形態では過剰摂取が生じる可能性があります。
生活習慣病の発症予防や重症化予防にマンガンが寄与する信頼にたる報告が少ないため、目標量は設定されていません。
日本人のマンガン摂取量は欧米人よりも多いため、必要量でなく、目安量を設定しており、目安量の半分程度の摂取であっても問題はないと考えられています。

◇モリブデン(Mo)
モリブデンは、キサンチンオキシダーゼ、アルデヒドオキシダーゼ、亜硫酸オキシダーゼの補酵素として機能しています。
先天的に不足すると、脳の萎縮と機能障害、痙攣、水晶体異常などが生じ、多くは新生児期に死にいたります。
モリブデンは穀類や豆類に多く含まれます。これらの摂取が多い日本人は、大豆製品を豊富に含む食品を摂取したときは1日に300㎍を超えるという報告があります。
成人男性では推奨量30㎍/日、女性は25㎍/日を大幅に上回りますが、海外の研究報告を参考にして、耐容上限量を成人男性は600㎍/日、成人女性は500㎍/日としています。そのため大豆製品の多い献立であっても、ほぼ問題のない摂取量といえます。

参考図書:
「日本人の食事摂取基準2020年版」伊藤貞嘉、佐々木敏<監修>第一出版
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
「管理栄養士・栄養士のためのアクセス生体機能成分」五明紀春、グュエン・ヴァン・チュエン、倉田忠男、谷本信也:共著 技法堂出版
「よくわかる生化学」津田道雄:著 金原出版

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