基礎からわかる メタボリックシンドローム 気をつけたい生活習慣
著者 プロフィール
加藤里奈
一般社団法人健康栄養支援センター 理事/副会長
医療福祉栄養研究部コーディネーター
管理栄養士
Contents
メタボリックシンドロームとは
糖尿病、高血圧などの生活習慣病は、内臓脂肪型肥満が大きく関わるものであることがわかってきました。
メタボリックシンドロームは、その内臓脂肪の蓄積をベースに、一個人にそうした生活習慣病が複数集積する状態、として設定された疾患概念で、「内臓脂肪症候群」ともいいます。
メタボリックシンドロームが強く疑われる、またはその予備軍に該当する人は、平成27年度、40~74歳で1,412万人になります。(健康日本21(第二次)分析評価事業 より)平成20年度より25%減少しました。
肥満の種類
皮下脂肪型肥満・・・洋ナシ型肥満ともいわれ、皮膚の下にある組織に脂肪がたまるタイプの肥満。主に女性に多い肥満です。
内蔵脂肪型肥満・・・リンゴ型肥満ともいわれ、腹部の内臓の周りに脂肪がたまるタイプの肥満。中年以降の男性に多く、閉経後の女性にも増える傾向があります。
メタボリックシンドロームの診断基準
“内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上をあわせもった状態”をいいます。
腹囲は、立った姿勢で、衣服を着けず、へその高さに水平に巻尺を巻いて、息を吐いた終わりに測定します。
メタボリックシンドロームを放置すると
高血糖、高血圧、脂質異常はそれぞれ単独でも動脈硬化のリスクを高めますが、これらがいくつも重なると、相乗的に動脈硬化性疾患の発生頻度が高まることが知られています。たとえば心疾患の場合、危険因子がない人の危険度を1とすると、危険因子が1つ持っている場合は5.1倍、2つ持っている場合では5.8倍、3~4個持っている場合は35.8倍にも急上昇します。
図1 心疾患の発症危険度
(労働省作業関連疾患総合対策研究班調査 Nakamura et al.jpn Cric ,65:11,2001)
動脈硬化は、進行すると心筋梗塞や脳梗塞など命にかかわる疾患につながるリスクが高くなります。動脈硬化が大きな要因となる心疾患、脳血管疾患は、日本人の主要な死因となっています。
内臓脂肪の影響
脂肪細胞は、様々な生理活性物質を分泌する働きも持っており、その中でも、病気を予防するような働きをするものもあれば、炎症を起こしたり血液の流れを悪くしたりするものもあります。脂肪の中でも、内臓脂肪が増えるほど、これらの中で、ヒトにとって良い働きをする物質が減り、悪い影響を及ぼす物質が増え、代謝機能のバランスが崩れて生活習慣病を引き起こしやすくなるとされます。
メタボリックシンドロームを予防するには?
メタボリックシンドロームは生活習慣を改善することで予防することが可能です。中でも、内臓脂肪を減らすことが重要になります。内臓脂肪は皮下脂肪に比べてたまりやすく減りやすいという特徴があり、予防につながる行動の成果も目に見えやすいといえます。運動と食事の両方を合わせた取り組みが大切になります。
〇適正体重を知る
自分がどのくらいのエネルギーを摂取したらよいのかの目安は、以下のように求められます。
エネルギー摂取量=標準体重×身体活動量
標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
身体活動量(kcal/kg標準体重) = 軽:25~30 普通:30~35 重:35~
※標準体重とは、疫学研究上最も総死亡率が低いとされるBMI(Body Mass Index:体格指数)
の数値である22を基準としたもの。BMIとは、肥満度を表す指標として国際的に用いられるもので、
体重(kg)÷身長(m)×身長(m) で求められます。
一般的には、標準体重を目指しつつ、まずは現在の体重を5%減らす目標を立てます。体重を5%減らすことにより様々な生活習慣病に関するリスクが減ることがわかっています。この目標に向かって、無理なく続けられるペースとして1ヵ月で体重を1kg減らすことを考えましょう。
体重1kgの減量は腹囲およそ1㎝の減になります。体脂肪1kgは7,200kcalに相当するので、1日あたり約240kcalずつ減らしていけばよいことになります。
〇食事について
食べ方
・腹八分目を守る
ちなみに、ごはん1杯中盛り140~150g⇒235~250kcal になります。
・主食・主菜・副菜を意識して
できるだけ毎食、主食(ご飯など)・主菜(メインのおかず。たんぱく質)・副菜(野菜・海藻・きのこなどのおかず)をそろえた和食の伝統的な献立にすると、自然と多様な食材が摂れます。
・1日3食規則正しく食べる⇒朝食を抜いたり夜食を摂るなどの不規則な食生活は肥満につながりやすくなります。
・野菜から先に食べる⇒野菜に含まれる食物繊維の働きで、後から食べる栄養素の吸収が穏やかにな
ります。野菜の目標は1日350g 外食時にも野菜メニューを1品追加しましょう。
・よくかむ⇒ゆっくり時間をかけることで満腹感を得やすくなります。食材は大きめに切りましょう。
・薄味にする⇒味が濃いと、つい主食のごはん等を食べ過ぎてしまいます。
・「ゆでる」「蒸す」「煮る」などは、「揚げる」「炒める」に比べ油の使用が少なくてすみます。
食材選び
・糖質 ⇒糖質の多いもの、精製した穀物、食物繊維の少ないものなどは要注意!
・脂質 ⇒脂身は除きます。動物性(ラード・バターなど)より植物性(オリーブ油・米油など)を選ぶ。魚油に含まれる不飽和脂肪酸を積極的に!
・タンパク質 ⇒脂身の多い部位は避けましょう。
脂質が多い部位 → バラ、ロース、サーロイン、手羽(皮つき) など
脂質が少ない部位 → ヒレ、かた、もも、ささみ など
肉に偏らず魚も摂りましょう。植物性タンパク質も積極的に。大豆は内臓脂肪の減少や中性脂肪の減少に効果的とされます。
・食物繊維 ⇒低エネルギーで満腹感をもたらします。野菜類・海藻類・きのこ類・雑穀など。
間食
・200kcalまでを目安に⇒みかん2個、蒸しまんじゅう1個、プリン1個程度。スナック菓子やケーキ類・菓子パンなどの、油っこいお菓子や甘いお菓子は軽く200kcalを超えるので注意しましょう。
・お勧めの間食⇒普段不足しがちなカルシウムや鉄、ビタミン類を摂れるようなもの
ヨーグルト+果物、小魚、アーモンドやクルミなどのナッツ類 など
飲酒
減量中はアルコールは控えるのが望ましいですが、仕事などで飲む機会もあるでしょう。そんなとき注意点としては、まずは適量を守ることが大切です。飲み過ぎはエネルギーの過剰摂取にもつながります。そして週に1日~2日は肝臓を休める休肝日を設けてください。
また、食べながら飲むことも大切です。飲酒中に食べ物を摂取することで、アルコールと胃の粘膜
の接触が緩和され、アルコールの吸収のペースがゆるやかになり、それによって胃腸障害を予防することができます。肝臓に必要な栄養素を補給することにもなり、肝臓への血流も良くなるため、肝臓が働きやすい環境を保つ事にもつながります。
お酒のつまみには、良質のタンパク質を含む枝豆や冷奴などの大豆製品や魚、アルコールが分解されるときに失われるミネラルやビタミンが豊富な、野菜や海藻類、キノコ類、などがおすすめです。
それらは低エネルギーで食物繊維も豊富なので、まず最初に食べるとおなかがふくれ、食べ過ぎや飲み過ぎを防いでくれます。
アルコール代謝で体内で使われるため、水や麦茶などの水分も同時に摂取しましょう。
〇運動について
ポイントは、体を動かす時間を増やすこと。
私たちのエネルギー消費量の6割は、基礎代謝で占められます。
基礎代謝とは、体温の維持や内臓の働き、細胞の活動などに消費される、生きるための必要最小限のエネルギー量です。この基礎代謝を高めることができれば、減量に非常に効果的であるといえます。
体の中で、最も多くエネルギーを消費しているのが筋肉です。筋肉を増やせば、基礎代謝を高めることができます。運動は、筋肉をつくり維持することにつながります。筋トレや、また脂肪の燃焼にはウォーキングや軽めのジョギング、水泳などの有酸素運動が有効です。
運動をあまりしていない方、忙しい方は、まずは今より1,000歩(約10分、600~700m)多く歩くことから始めてみてください。
また身体活動には、スポーツなどの“運動”以外に、家事や労働・通勤等の“生活活動”があります。まずは、毎日の生活の中で、通勤時に一駅歩く、エレベーターに乗らない、掃除や洗濯のような家事など、できる範囲で体を動かす工夫をしてみてください
以下に日常生活に取り入れやすい生活活動、運動を示しました。
それぞれの点数に体重をかけると、およその消費kcalになります。
さきほど挙げた、240kcalは、体重80kgの人でおよそ1時間の早歩きに相当します。
最後に
こうした取り組みを継続するための効果的な方法として、体重を測ること、食事記録をつけること、があります。
体重の日々の変化が見えることでモチベーションも上がり、食事に気をつける感覚が身に付きます。1日食べ過ぎた日があっても翌日を控えめにするなど、3日~1週間程度で調整していけば、負担も少なく取り組めます。
メタボリックシンドロームの予防・改善への近道はありません。
この機会に生活習慣を見直し、何か1つからでかまいません。できることから始めてみましょう!!!
参考
〇e-ヘルスネット 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic-summaries/m-01
〇公益社団法人 アルコール健康医学協会 http://www.arukenkyo.or.jp/health/index.html
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