基礎からわかる【脂質異常症】気を付けたい生活習慣

脂質の多い肉

一般社団法人健康栄養支援センター
医療・福祉栄養研究部
管理栄養士 笹渕未来

■脂質異常症(高脂血症)とは

脂質異常症(高脂血症)とは、血液中の脂質の濃度が高すぎるなど、中性脂肪やコレステロールの脂質代謝の異常を来している状態を言います。以前は「高脂血症」と呼ばれていました。しかし、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い場合も含むので、2007年4月に診断名が「高脂血症」から「脂質異常症」に変わりました。

■脂質異常症の診断基準

日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」では、脂質異常症の診断基準は以下の通りとなっています。異常値を示す脂質の種類によって「高LDLコレステロール血症」「低HDLコレステロール血症」「高トリグリセライド血症」「高non-HDLコレステロール血症」のタイプに分けられますが、複数のタイプを同時に持っていることもあります。

①LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高い
 ・高LDLコレステロール血症:140mg/dL以上
 ・境界型高LDLコレステロール血症:120~139mg/dL

②HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い
 ・低HDLコレステロール血症:40mg/dL未満

③トリグリセライド/TG(中性脂肪)が高い
 ・高トリグリセライド血症:150mg/dL以上

④Non-HDLコレステロールが高い
 ・高non-HDLコレステロール血症:170mg/dL以上
 ・境界型高non-HDLコレステロール血症:150~169mg/dL

■症状

血液中の脂質が異常に増えても、すぐには症状として現れません。脂質異常症は、自覚症状がないにもかかわらず症状が進行していくことから、生活習慣病である高血圧、糖尿病、肥満と並んでサイレントキラー(静かなる暗殺者)と呼ばれています。

■脂質異常症を放置すると

血液中の多すぎる脂質が血管壁を傷つけプラーク(傷ついた血管壁に余分なコレステロールなどが溜まったもの)を形成しながら、動脈硬化が進行します。プラークが形成されると、血管が狭くなり、血流が悪くなります。何らかの刺激が加わり、プラークが破裂すると、血栓という血の塊ができてしまいます。血栓は心臓の血管が詰まる心筋梗塞や狭心症を引き起こしたり、脳の血管が詰まって脳梗塞を引き起こしたりするリスクとなります。

血管イメージ

■脂質異常症を予防するには?

★減量

食べ過ぎや、活動量が不足していることによって体重が増えすぎた結果、脂質異常症になる可能性が高くなります。今の体重は望ましい体重なのか?以下の式に当てはめて、BMIを求めてみてください。日本人の食事摂取基準の2020年版では、年代ごとに目標とするBMIの範囲が示されています。

BMI(体格指数)=体重(kg)÷身長(m)×身長(m)

目標とするBMIの範囲(18歳以上)

年齢目標とするBMI(kg/m2
18~49歳18.5~24.9
50~64歳20.0~24.9
65~74歳21.5~24.9
75歳以上21.5~24.9

「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」より

★食事の量(カロリー)の決め方

急激な減量は体に負担がかかり、リバウンドの可能性も高くなるので少しずつ取り組みます。体重をしばらく測定してみて、大きな変動が無ければその時の食事量が、体重を維持するのに必要な食事量(カロリー)となります。減量を始める際も、まずは自分の体に見合った適正な食事量を知り、そこから少しずつ減らしていくと良いですね。

★バランスのよい食事とリズム

まずは、食事を抜いたり、1食で多く食べ過ぎたりといった“ムラ食い”は避けて3食きちんと摂るようにしましょう。その上で主食(ご飯、パン、麺など)、主菜(肉、魚、豆腐、卵など)、副菜(野菜、海藻、きのこなど)を毎食食べられるように献立を立てられるのがベストです。イメージとしては和食の定食です。

しかし、このような食事はハードルが高いと感じるかもしれません。もう少しハードルを下げてコンビニ食を取り入れて考えてみましょう。

ーーーーーコンビニ食の選び方ーーーー

【例】菓子パンとおにぎり(梅)

コンビニ例
主食:パン、ご飯
主菜:なし
副菜:梅干し

この例では、主食が多く、主菜なし、副菜が少ししか摂れないことがわかります。

【改善例①】野菜サンドイッチ、サラダチキン

コンビニ例改善1
主食:パン
主菜:サラダチキン
副菜:レタス

【改善例②】納豆巻き、ひじきおにぎり、味噌汁、サラダ

コンビニ例改善2
主食:ご飯
主菜:納豆、豆腐(味噌汁)
副菜:ひじき、わかめ、ねぎ(味噌汁)、サラダ

沢山の商品があるので色々な組み合わせが考えられますが、このように、手軽に買えるものでも選び方を工夫することで、主菜となる肉、魚、豆腐、卵などや、副菜となる野菜、海藻、きのこなどを足して、バランスを改善することができます。少し意識するだけでできることなので、明日から食事を変えてみませんか?

★食事のポイント

①油の質と量を見直す

肉の脂身、乳製品、卵黄の量を減らし、魚類、大豆製品に置き換える。

・魚類や大豆製品の油(多価不飽和脂肪酸)などには、LDLコレステロールや中性脂肪を減少させる働きがあります。
・反対に、脂身の多い肉や乳製品、卵黄の油(飽和脂肪酸)などにはLDLコレステロールを上昇させる働きがあります。

例えば、豚肉や牛肉であればバラ肉などは脂身が多く含まれているので、もも肉やヒレ肉に変えると良いです。鶏肉であればもも肉よりもむね肉やささみの方が脂身は少ないですね。メインのおかずを焼き魚にしたり、豆腐ハンバーグなど肉を豆腐に置き換えるのも取り入れやすい方法です。全てを減らしたり、置き換えなければいけない、などと固く考えずに、少しずつ変えていくことで今よりも摂取する油の質が改善し、量も減っていきますよ。

②野菜、果物、海藻、きのこの摂取を増やす。
これらに豊富な、ビタミン・ミネラル類が動脈硬化の予防に働き、食物繊維がコレステロールの吸収を抑えます。

③塩分を摂り過ぎないようにする:塩分の多い食事は血圧を上昇させます。

高血圧になると、動脈硬化を引き起こすリスクが高まるので、薄い味付けに慣れるようにしましょう。
薬味やハーブ、レモンや酢を使った味付けをすると薄味でも美味しく仕上げることができますよ。

④過度な飲酒は控えるアルコールを摂り過ぎると中性脂肪値が上昇します。

以下の量を(1日あたりの適量)目安に、週に2日は休肝日を作ることが望ましいです。

ビール・発泡酒(5%)500ml(中ビン・ロング缶1本程度)
酎ハイ(7%)360ml(350ml缶1本程度)
日本酒(15%)160ml(1合程度)
適度な飲酒

【アルコールを減らす取り組み例】
焼酎は薄めに割って飲むようにする。
ノンアルコール飲料を取り入れてみる。
お茶や水と同時に飲むようにする。
休肝日を●曜日にする!など決めてみる。 
などがありますね!

また飲み会が多くて量や頻度が減らせない…という方は周囲に節酒を宣言したり、上でも述べた「焼酎は薄めに割って飲むようにする」「お茶や水と同時に飲むようにする」方法は飲み会での飲酒量を減らすことにもつながります。

参考:健康日本21「節度ある適度な飲酒」について

⑤甘いお菓子、ジュースを摂り過ぎない:摂り過ぎた糖質は、中性脂肪に変わります。
またスナック菓子や洋菓子などの飽和脂肪酸が多く含まれているものは、摂り過ぎるとLDLコレステロールを上昇させるリスクが高まります。まず第一に「★バランスのよい食事とリズム」でもお話ししたように“3食きちんと摂るようにする”ことができていることが大切です。間食が多くなりすぎている場合は、そもそも朝昼晩の食事の量が足りていないといったことも考えられます。「★食事の量(カロリー)の決め方」を参考にして食事量を見極め、しっかりとお食事から栄養を摂るようにしてくださいね!

他にも
ガムを噛む 
買い置きしないようにする、小分けのものを買う、保存袋に入れて少しずつ食べる 
お茶、甘い香りのついた紅茶を代わりに飲む 
お菓子を選ぶときは栄養成分表示(食品の裏側などに記載されている/下表参照)を見る
などの工夫をすることが大切です。

ダイエットを考えている場合は、お菓子など間食も含めて食事量を調節していくことが必要ですので、栄養成分表示を見て、間食から多くカロリーを摂り過ぎないようにしましょう。

★運動

運動はHDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やして、中性脂肪を減らす効果があります。特に有酸素運動が効果的です。

ウォーキング

日々の忙しさで運動する時間が取れない…といった方は
・今より10分多く歩くようにする
・エレベーターやエスカレーターを使わず、階段で昇り降りするようにする
・遠くの店に自転車や徒歩で買い物に行ってみる
・店の入り口から遠い駐車場に停めて歩く時間を増やす

こうした日々の「ちょっとした」心がけをするだけでも、運動量が増えていきます。
まずは気負わず続けられそうなところから、始めてみましょう。

★禁煙

喫煙はHDLコレステロール(善玉コレステロール)を減らしてしまいます。

禁煙が体に良いことは知っていても、禁煙は簡単にはできないものです。過去に禁煙に挑戦して、失敗した方も多いのではないでしょうか?オックスフォード大学が行った研究では、ある日からきっぱりと喫煙をやめる「断煙」グループの方が、徐々に本数を減らしていった「減煙」グループよりも成功率が高いという結果が出ています。

とはいえ、きっぱり断煙できる方も少ないと思いますので、
「減煙」という方法からでも挑戦してみることが第一歩となります!

何度か失敗して、最終的に禁煙に成功する人も少なくありませんから、禁煙にチャレンジしてみましょう。

禁煙開始後2~3日をピークに禁煙の離脱症状(禁断症状)が現れます。
吸いたい気持ちがあらわれる場面とその対処法(代替案)を事前に考えておくことで、いざその時がやってきたときに対処できます。

また、一定の基準を満たせば保険適用で禁煙治療を受けることが出来ます。
「一人ですると挫折してしまうな」「専門家にサポートしてもらいながら禁煙をしたいな」と考える方は一度検討されてみてはいかがでしょうか?

参考:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防のための 脂質異常症治療 のエッセンス(2014)」
If you want to quit smoking, do it now(オックスフォード大学 2016年3月15日)
厚生労働省 e-ヘルスネット[情報提供]  禁煙の準備 – 禁煙7日前から行う、禁煙のコツを教えます!《準備編》

<関連ページ>
栄養素シリーズ 第2回 脂質
栄養素シリーズ 第1回:たんぱく質
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