知っておこう 食品衛生の基礎知識
著者 プロフィール
加藤里奈
一般社団法人健康栄養支援センター 理事/副会長
医療福祉栄養研究部コーディネーター
管理栄養士
コロナ禍の中で、おうち時間が増え、多くの方が家で調理や喫食をする機会が増えたと思います。
実際に調理をする際には、「おいしさ」に加え、「安心・安全」という要素も不可欠です。
今回は、自身の健康管理を始めとして、調理に使用する食材の扱い方、調理過程や供食時までの各工程における衛生・安全管理について、ポイントをお伝えします。
個人の調理時だけでなく、飲食店や調理現場に従事する方にも共通して大切なことになります。
Contents
■食中毒を起こさないために
調理において最も注意すべきは、食中毒です。
次の3原則に基づいた衛生管理が必要になります。
<食中毒予防の3原則>
①つけない =細菌をつけない 「清潔」
手洗いや消毒を十分に行い、食品や器具を清潔に扱うことで細菌の付着を防止することができます。
②ふやさない =細菌を増やさない 「迅速」
食中毒が発症可能な量にまで細菌が増殖するのを防ぎます。
調理終了の食品は迅速に提供されることが大切。
病原菌の最も発育しやすい温度(発育至適温度)=約20~50℃ に、
食材や調理中および調理済の料理がさらされる時間をできるだけ短縮することが重要になります。
そのためには適切な温度管理が必要で、供食まで保存する際も、常温で放置するなどせず、
熱いものは熱いまま、冷たいものは冷蔵や冷凍での保管を行います。
③殺す =細菌を殺す 「加熱」
食品の中心部まで十分に加熱することで、多くの細菌を殺すことができます。
食肉など、中まできちんと火が通っているかを確認します。
<人からの予防>
1)準備作業:細菌をつけない 「清潔」
●個人衛生⇒健康管理の徹底を。下痢、嘔吐などの胃腸症状があったり、
手指の損傷や化膿創(化膿した傷)がある場合は、調理に従事しないことが望ましいですが、
マスクをする、手袋をする、絆創膏をはるなどの工夫をして調理作業を行います。
●清潔な身なり⇒衛生的で作業しやすい服装で行います。
特にお店などでは頭髪を出さないよう帽子などで頭部を覆いましょう。
装飾品(ピアスやネックレス、指輪等)は調理前に外しておきます(異物混入の防止)。
また、マニキュアも落としておき、爪もきちんと切っておきましょう。
●手洗いの徹底⇒衛生管理は「手洗いに始まり手洗いに終わる」といわれるほど、
衛生管理の基本になります。(図1参照)
2)下処理・調理~盛り付け作業:細菌をつけない 「清潔」
●食材の安全確認⇒原材料のトレーサビリティ(※追跡可能性)の確認と
衛生的な取扱いを心がけます。食材の品質や鮮度、包装、品温、賞味期限、
原産地、加工地等の確認をします。
(※食品の安全を確保するために、栽培や飼育から加工・製造・流通などの
過程を明確にすること。また、その仕組み。)
●洗浄作業⇒野菜や果物の洗浄、魚介類の水洗い等を同時にしないこと。
野菜や果物から先に洗います。
大量調理などの現場では、食品の各調理過程ごとに、
汚染作業区域(検収場、原材料の保管場、下処理場)、
非汚染作業区域(さらに準清潔作業区域(調理場)と清潔作業区域(放冷・調製場、製品の保管場)に区分される。)
を明確に区別します。各工程ごとに手洗いも忘れないようにしましょう。
家庭でも、土付きの野菜を洗った後は次の作業に移る際に再度手洗いをしましょう。
●調理操作⇒野菜や果物など生で食べるものから先に調理し、肉や魚、卵などは最後に。
肉、魚、卵に触れた後は必ず手洗いをしてから作業に移ります。
調理操作をする際に細菌や汚染物質に汚染されることのないようにします。
●盛り付け作業⇒作業前に再度手洗いをし、必要に応じて手袋などをした上で行います。
清潔な食器類に清潔な器具等で盛り付けます。
<衛生的な環境・施設からの予防>
1)調理作業:細菌を殺す 「加熱」
十分な加熱により細菌を死滅させる。加熱操作中に食品の中心温度を確認します。
中心まで火が通っているか肉の色や状態を見ます。
(ちなみに、食材の中心温度が75℃の状態で1分以上、
ノロウイルス対策には85℃~90℃で90秒間以上の加熱が有効とされています)
2)温度管理:細菌を増やさない 「迅速」
細菌の発育指摘温度帯を避けます。非加熱操作や加熱後冷却するものは、
正しい温度管理をして細菌の増殖や二次汚染を防ぎます。
加熱調理後に常温で放置しないこと。加熱後冷却する際は速やかに温度を下げます。
3)作業時の注意:細菌をつけない 「清潔」
手洗い⇒生ものを取り扱ったりごみを捨てるなどの汚染作業の後には必ず行います。
盛り付け時⇒清潔な器具で速やかに行い、長時間の常温での放置はしないこと。
水環境⇒シンクからの水はねに注意しましょう。シンクのそばに食材を置かないようにします。
<器具からの予防>
●洗浄・清掃作業:安全確認からの危機管理
器具の使い分け⇒器具やまな板、シンクなどは、肉や魚など生ものに使用するものと、
野菜や果物などそのまま食べたりするものに使用するものとに分けることが望ましいです。
また、その都度よく洗い随時熱湯消毒などできる範囲での消毒も行います。
清掃⇒調理台・調理器具・冷蔵庫の中はもちろん、床・ガス台・戸棚・壁等も清掃し清潔に保っておきます。
安全確認⇒作業終了後は、ガスの元栓・電気・コンセント等の点検と安全確認を行います。
<作業の安全性>
●調理上のアクシデントの予防
1)火災の予防
ガス・電気などを使用する際には使用前・後の点検や
加熱調理中の器具の取り扱いに十分注意しましょう。
特に加熱油への引火は火災のリスクが高いです。下記のようなことに注意しましょう。
①天ぷらや揚げ物をするときは、その場を離れない。
どうしても離れなければいけない時は必ず火を止める。
②台所に消火器や住宅用自動消火装置を設置する。
③ガスコンロは、立ち消え安全装置、加熱防止装置などの付いた
安全調理器具を選ぶのも一つの方法。
2)けがの予防
調理時に起きやすい、切り傷・刺し傷・擦り傷に注意しましょう。
転倒、人や機材への接触など思わぬところに危険があります。
濡れた床はすぐにふく、あわてずに走らない、刃物を持つときは特に注意するなど。
作業中の声かけ(うしろを通ります、など)は効果的です。
3)やけどの予防
加熱調理中に器具に接触する、蒸し器などの湯気にあたる、
熱湯や揚げ油がはねる、等に注意しましょう。
けがややけどを負ったときは作業を中断して速やかに救急処置を行います。
(止血ややけどは冷水につけて患部を空気から遮断する)
■食中毒の発生状況とおもな病因物質
食中毒は、細菌やウイルスなどの微生物性のもの、ふぐや毒きのこなどの自然毒によるもの、
カドミウムやカビ毒のような化学物質によるものに大きく分けられます。
中でも微生物によるものが全体の9割を超えることから、微生物性の食中毒対策が重要です。
近年では食中毒の発生件数は年間1,000~1,500件、患者数は15,000~25,000人で推移しています。
令和元年度では、年間1,061件発生し、患者数は13,018人。年間を通して注意が必要です。
原因食品としては魚介類・肉類・野菜類が多いですが、どの分類にも属さないものや
複合調理品はさらに多く、原因が多岐にわたることも多いことがうかがえます。
病因物質としては、細菌では腸管出血性大腸菌・ウェルシュ菌・カンピロバクターが多く、
ウイルスではノロウイルスが多いです。
おもな病因物質を以下に挙げました。それぞれに発生しやすい時期や、食材、特徴があります。
表の一番右列に挙げた個々の対応策を念頭に置いて、日々の調理に生かしていただけたらと思います。
<細菌>
感染型・・・食品に付着して増えた細菌を食品と一緒に食べることで発症
食品内毒素型・・・食品中で大量に増えた細菌が毒素を作りこの毒素を食品と一緒に食べることで発症
生体内毒素型・・・細菌が腸管で増殖し、産生された毒素により発症
<ウイルス>
※商品例 ミルトン、ハイター、ピューラックス など。濃度が濃いので希釈して使うこと。
商品の使用上の注意書きに希釈の目安量も載っているので参考にしましょう。
<寄生虫>
参考
・調理場における洗浄・消毒マニュアルPART1 文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育科
・佐渡市消防本部予防課
<関連ページ>
・微生物が大活躍! 発酵のしくみ
・栄養素シリーズ 第1回:たんぱく質
・基礎からわかる【糖尿病】気をつけたい生活習慣