【食材シリーズ】砂糖:使い分けできていますか?特徴を知ってもっとおいしく
著者 プロフィール
医療・福祉栄養研究部所属 管理栄養士
M・I
料理やお菓子作りに欠かせない砂糖ですが、実際にはいろいろな種類があります。
みなさんは砂糖をちゃんと使い分けできていますか?
特徴を知って使い分けることで、料理やお菓子作りの幅が広がります。
今回は砂糖が料理や菓子に使われる目的、健康面に触れながら述べていきたいと思います。
Contents
1.砂糖ができるまで
砂糖の原料はさとうきび、またはてんさいという植物になります。
この2つの植物は、太陽の日差しを浴びて光合成を行うことで、茎や根にしょ糖を蓄えていきます。
このしょ糖を取り出して加工したものが砂糖です。
砂糖の原料
●さとうきび
イネ科の植物で、太い茎の部分に糖が蓄えられています。高温多湿な地域で栽培されており、
主な産地はアジアや南アメリカで、日本では沖縄県や鹿児島県で生産されています。
世界の砂糖の生産量の70~80%を占めており、さとうきびから作られる砂糖を「甘蔗糖」と呼んでいます。
●てんさい(ビート、さとうだいこん)
大根やかぶのような形をしており、白い根の部分に糖が蓄えられています。さとうきびとは異なり涼しい地域で栽培されており、
主な産地はフランス、ドイツなどのヨーロッパで、日本では北海道で主に生産されています。
てん菜からつくる砂糖を「てんさい糖」と呼んでいます。
日本で消費される砂糖のうち、国産の原料から生産されるものは30 %程度であり、
残りは原料糖というものを輸入して国内で精糖されています(オーストラリアやタイからの輸入が多い)。
砂糖の作り方
※さとうきびから作る場合と、てんさいから作る場合で違いはありますが、おおまかに記載しています。
①材料を絞ったりするなどして、しょ糖を取り出す。
石灰乳や炭酸ガスによる処理、遠心分離、ろ過などを通して不純物を取り除きながら精製していく。
②最終的に結晶として仕上げるが、結晶の大きさを調節することにより、グラニュー糖や上白糖などの砂糖に分かれる。
また振り分けられて残った糖蜜にはまだかなり糖分が残っているため、煮詰めて結晶を取り出す工程を何度か繰り返していく。
これにより、三温糖やざらめと呼ばれる中双糖(ちゅうざらとう)などが作られる。
2.砂糖の成分
砂糖は材料から「しょ糖を取り出したもの」であるため、砂糖の主成分は糖質のしょ糖になります。
種類や作り方、精製具合によってミネラルなどの成分が含まれるものもあります。
主成分のしょ糖は、ぶどう糖と果糖が結合した二糖類に分類されるものです。
しょ糖は体内に入るとぶどう糖と果糖に分解されてて吸収していきます。果糖は体内でぶどう糖に変換されるためいずれも血糖として体内で働きます。
一方、しょ糖はご飯などに含まれる糖質であるでんぷんに比べると構造が単純で分解が容易であるため、ご飯を食べた時よりも砂糖を食べたときの方が、スピーディーに血糖となります。
疲れた時などに甘いものが食べたくなるのは、糖質の消費による一過的な低血糖状態に対して糖質を補給しようとする体の生理的な反応です。
しかしながら、摂り過ぎれば高血糖を引き起こし、インスリンというホルモン分泌に影響を与えることになります。持続的な高血糖症状は血管壁にも悪影響を与え、肥満や糖尿病の原因となるため、摂り過ぎは注意が必要です。
<参考:糖質の種類について>
糖質は結合している糖の数によって、区分されている。
・単糖類:一番小さい単位の糖。
ぶどう糖、果糖、ガラクトースなどの種類がある。
・少糖類:二糖類、三糖類などがある。
二糖類:単糖類が2個結合したもの。
しょ糖、麦芽糖、乳糖などの種類がある。
・多糖類:単糖類が多数結合したもの。
でんぷんなどの種類がある。
3.種類
砂糖は主に製造方法によって種類が分けられています。
精製しているかどうかで大きく区分され、しょ糖の割合やその他に含まれている成分の違いによって味が変わります。
3-1. 原料から搾った汁をそのまま煮詰めたもの
●黒砂糖(黒糖)
・さとうきびから搾った汁をそのまま煮詰めた黒褐色の砂糖。
・しょ糖の割合:87.3%
・精製されていないため、さとうきびにもともと含まれているミネラルやアミノ酸が残っている。
不純物が残存するため、甘味だけでなく旨味や苦味、香りが混合されており、複雑な味である。
3-2. 原料から搾った汁をろ過や遠心分離などをして精製したもの
(加熱と濾過を繰り返し、余分な不純物を取り除き純度の高い無色透明の砂糖に加工していく)
●グラニュー糖
・しょ糖の割合:100%
・最もしょ糖の純度が高い砂糖。世界で一般的に使用されている。
・純粋に甘味のみをつけることができ、料理や菓子、飲み物など広く利用されている。
※グラニュー糖より結晶のサイズが大きいものを白双糖(しろざらとう)という。
(家庭で使われることは少ない)。
※白双糖にカラメル色素をつけて茶色に色づけたものを中双糖(ちゅうざらとう)という。
一般的に「ザラメ」といわれているもの。
●上白糖(白砂糖)
・しょ糖の割合:97.9%
・日本で生産量が多い砂糖。世界ではほとんど生産されていない。
・グラニュー糖との大きな違いは、グラニュー糖より結晶が小さく、転化糖が混ぜられていること。
※転化糖:しょ糖と同じぶどう糖と果糖の混合物であるが、処理によって果糖の化学的性質が変化したもの。
しょ糖より甘味が強く、この転化糖を含む上白糖はグラニュー糖より甘味を強く感じる。
また吸湿性があるため、上白糖はしっとりしている(保存中にも固まりやすい)。
グラニュー糖 上白糖
●三温糖
・しょ糖の割合:97.4%
・作り方は上白糖とほぼ同じである(転化糖が混ぜられている)が、加熱処理の回数が上白糖よりも多く、加熱によって茶色の色が付いている(砂糖のカラメル化現象)。
ただ、カラメル化するのは一部なので、見た目を均一にするためにカラメル色素を添加している場合が多い(上白糖にカラメル色素を添加しただけのものも販売されている)。
そのため、三温糖はグラニュー糖や上白糖などの白い砂糖に比べて成分的なメリットはない。
・三温糖は上白糖より転化糖が多く、またカラメル色素が持つ独特の風味とコクにより、甘味やコクを強く感じやすい。
●てんさい糖
・しょ糖の割合:85.1%
・グラニュー糖や上白糖などは、「原料から搾った汁をろ過や遠心分離などをして精製したもの」であるが、遠心分離をしたときに取り除かれる「糖蜜」というものがある。てんさい糖とは、てんさいを原料とし、グラニュー糖や上白糖を作る時に取り除かれる糖蜜を利用して作った砂糖である。
・糖蜜にはアミノ酸やミネラルなどしょ糖以外のものが含まれており、これが茶色の色を付けている。
4.調理効果
料理や菓子に砂糖を使用する目的は、単に甘味をつけるためだけでなく、いろいろな調理効果を目的としていることがあります。
ちなみに、カロリー0の低エネルギー甘味料では、これらの効果がほぼ期待できません。
そのため、砂糖を低エネルギー甘味料に変えても甘味をつけることはできますが、見た目や食感に影響が出てくるため、注意しましょう。
4-1. 保水性に関連する調理効果
砂糖には保水性があり、この保水性は、いろいろな場面で活躍しています。
保水性:水分を保つ効果のこと。砂糖を使用すると、食品の水分を維持させることができる。
●食品を柔らかく仕上げる。
肉を煮込むときに砂糖を使用すると、肉の水分がある程度維持されて柔らかくなります。
卵焼きやプリンに使用すると、砂糖が水分を維持することで卵が柔らかく固まります。
スポンジケーキに使用すると、しっとりした食感に仕上がります。
●泡立ちを安定させる。
メレンゲを泡立てるときは砂糖を使用すると、泡が安定します。
メレンゲを使用するスポンジケーキを作る時は、メレンゲの安定性が焼き上がりの生地のボリューム感に影響します。
砂糖を使用せずに作ったメレンゲを使用すると、生地が膨らみにくくなります。
生クリームを泡立てるときも、砂糖を使用すると安定するため、デコレーションなどがしやすくなります。またツヤも出ます。
生クリーム ロールケーキ
●ごはんや餅をやわらかく保つ
ごはんや餅は冷めると硬くなります。これは、でんぷんの老化現象(β化)というものですが、
砂糖を使用すると、保水性により、でんぷんの老化が抑えられます。
おはぎなどの和菓子が冷たい状態でも柔らかかったり、酢飯を作る時に砂糖を使用するのもこのためです。
●防腐効果
果物などをジャム・砂糖漬けにすると保存性が高まります。
細菌やカビが増殖するためには、食品の内部に含まれている水分が必要となりますが、砂糖が食品中の水分を奪い取り、腐敗を防いでいます。
4-2. 茶色の色を付ける
●メイラード反応
食品中の糖とたんぱく質(アミノ酸)は反応すると、メラノイジンと呼ばれる褐色の物質ができます。
これをメイラード反応またはアミノカルボニル反応といいます。
この反応により、料理やお菓子に香ばしい茶色の色を付けます。また、香ばしい香りも付けます。
●カラメル化
砂糖のみを加熱しても、茶色の色が付きます。これはしょ糖の構造が変化することで起こるものです。
これをカラメル化といい、三温糖の色、べっこうあめ、カラメルソースなどの色のもとになっています。
砂糖のメイラード反応 砂糖のカラメル化
4-3. 酵母の働きを促進する
パンを作る時、酵母を利用して発酵させますが、酵母のえさとして糖質が必要となります。
パンの材料である小麦粉にもでんぷんという糖質は含まれていますが、酵母にとってでんぷんは利用しづらいため、砂糖を加えると、酵母がよく働くようになります。
そのため、甘いパンを作りたいわけでなくても砂糖を使うとパンの発酵がうまく進み、作りやすくなります。
5.使い分け
今回紹介した砂糖のエネルギーは、350~390kcal(100gあたり)程度であり、種類の違いによるエネルギー量には大きな差はありません。
また、黒砂糖やてんさい糖はアミノ酸やミネラルを含んではいるものの、砂糖だけで必要な量を補給できるような十分なものではありません。
アミノ酸やミネラルを摂るにはかなりの量を摂取する必要があり、それは糖分の摂り過ぎになるため、本末転倒です。
砂糖の調理効果を理解したうえで、「色」「甘味・コクの強さ」を生かし、料理や菓子にうまく使っていくと良いと思います。
●グラニュー糖
純粋に甘味をつけることができる。
他の食材の色や香りの邪魔になりにくいため、何にでも利用できる。
●上白糖
グラニュー糖より甘味が強くコクがあるため、好みでグラニュー糖と使い分けるとよい。
また、上白糖に含まれている転化糖はメイラード反応を起こしやすいため、
グラニュー糖よりも焼き色や香ばしいにおいが付きやすい。
●黒砂糖
甘味だけでなく複雑な風味があるため料理や菓子に特徴をつけたいときに使う。
また、濃い茶色の色や香りも付くため、他の食材の色や香りを生かしたいときは適さない。
●三温糖
茶色の色が付いていること、転化糖が含まれていることにより、
加熱したときに上白糖よりも色が付きやすく香ばしい香り、コクが付きやすい。
●てんさい糖
含まれている成分は黒砂糖に近いが、黒砂糖よりも味や色は控えめになる。
料理やお菓子のレシピで具体的な砂糖の種類が記載されているときは、単なる甘みを加えるだけでなく、レシピ作成者による意図があってその砂糖が指示されていると思いましょう。勝手に砂糖の種類を変更すると、味や見た目がレシピ通りにいかない可能性があるため注意が必要です。
また、砂糖にはいろいろな調理効果があるため、健康面を配慮して砂糖の量を極端に減らしてしまったり、使用しなかったりすると、おいしく仕上がらない可能性が出てきます。
砂糖を減らす場合には調理特性を考えながら、上手にレシピをアレンジしていきましょう。
参考資料
・精糖工業会 https://seitokogyokai.com/knowledge/
・三井製糖 https://www.nissin-sugar.co.jp/sugarlab/index.php
・パールエース https://www.pearlace.co.jp/know-and-fun/
・河田昌子 柴田書店 お菓子「こつ」の科学
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