栄養素シリーズ 第4回 ビタミン

一般社団法人健康栄養支援センター
 医療・福祉栄養研究部
管理栄養士:日下千代子

ビタミンとは

ビタミンとはヒトが生命維持のために栄養を摂り、その代謝に必要とする有機質の微量栄養素です。ここでの微量とは、1日当たりの必要量が100㎎程度以下を指します。ビタミンはヒトの体内ではほとんど合成できませんが、ビタミンB₂、Kは腸内細菌によって合成されるものもあります。また、βカロテンのように、それ自体ビタミン作用がなくても、体内でビタミンAに変化するものもあります。

糖質、脂質は体内のエネルギー源、たんぱく質は身体の構成成分となることはよく知られています。ビタミンは、これらの栄養素の体内代謝を円滑にする働きをする役割を担っています。ビタミンが不足していると、糖質、脂質、たんぱく質を摂取しても、効率の良い代謝活動ができない状態になってしまいます。この状態が長く続くと最後には心身の不調を起こすことになってしまいます。

ビタミンは溶解性の違いで、脂溶性ビタミン、水溶性ビタミンに大別されます。この違いは単に溶媒への溶解性が異なるだけでなく、体内での挙動が違うので、ビタミンを理解する上で大事なポイントになります。

厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」では、ヒトに必要なビタミンとして、脂溶性ビタミンとして4種、水溶性ビタミンとして9種、計13種類が詳細に記載されています。そのほとんどは20世紀前半に発見されたものです。しかし、個々のビタミンの詳しい作用については、まだまだ不明な点が残されています。

脂溶性ビタミンは蓄積しやすい一方、水溶性ビタミンは飽和量があり、過剰分は尿中に排出されてしまいます。つまり、脂溶性ビタミンは過剰症を起こしやすく、水溶性ビタミンは欠乏症を招きやすくなります。

脂溶性ビタミンは一般に細胞膜組織のような構造に組み込まれているのに対し、水溶性ビタミンは血液、組織液などの体液中に溶解して分布しています。

脂溶性ビタミンは皮膚の垢あるいは腸粘膜剥離によって糞中に排出され、水溶性ビタミンは主に尿中に排出されます。

脂溶性ビタミン

ビタミンA(レチノール)

不足すると夜盲症(とり目)になることが知られています。網膜の光感受性が鈍るためです。他に不足すると、角膜、口腔粘膜、皮膚の乾燥を生じます。また、細胞膜組織の機能維持にも重要な働きをしています。

ビタミンAの作用物質の代表はレチノールです。レチノールと構造が少し異なる類縁体が知られていますが、それらはまとめてレチノイドと呼ばれています。

ビタミンAは動物性食品から主にレチニル脂肪酸エステルとして、小腸上皮細胞において加水分解酵素によって、細胞内に取り込まれます。植物性食品からはプロビタミンAであるカロテノイドとして摂取され、小腸上皮細胞内で中央開裂によってビタミンAを生成します。β-カロテンは2分子のビタミンAとなるため、効果的なカロテノイドとされています。

レチノールは、融点62~64℃の黄色い結晶で、空気中の酸素によって酸化され、光にあたると酸化は速やかに進みます。レチノールは酸化によって効力を失い、油に溶存しているときは比較的安定していますが、油の自動酸化が進むと、レチノールも急速に壊れてしまいます

肝臓などの組織では、ビタミンAは脂肪酸エステル型で蓄えられており、遊離型と比べて安定しています。 肝臓内のビタミンA貯蔵量が20μg/g以下に低下するまでは血液中濃度の低下はみられません。

ウナギ(ビタミンAが豊富)

 *多く含まれる食品は、プロビタミンAの下段に記載

プロビタミンA

天然のカロテノイド色素には、それ自体にはビタミン様作用がありませんが、体内でレチノールに変化してビタミンAの作用を発揮します。ビタミンAの前駆体となりうるものが、プロビタミンAです。その代表的なものがよく知られているβカロテンです。一部のβカロテンはそのままの形で肝臓に運ばれ蓄えられ、必要に応じてレチノールに変換されます。

βカロテンは緑黄色野菜に多く含まれますが、それらを大量に摂取したとしても、ビタミンAのような過剰症はないと言われています。プロビタミンAカロテノイドから、ビタミンAカロテノイドへの変換は厳密に調整されているためです。

ビタミンAに変換されなかったプロビタミンAカロテノイド、リコペン、ルテイン、ゼアキサンチンなどのビタミンAにならないカロテノイドの一部は体内にそのまま蓄積して、抗酸化作用、免疫賦活作用などがあると想定されています。

過剰摂取による健康障害が報告されているのは、サプリメントあるいは大量のレバー摂取によるものです。

★多量に含まれる食品:植物性食品(ニンジン、カボチャ、ホウレンソウなどβカロテンとして)動物性食品(肝臓、ウナギなど)

ビタミンD(カルシフェロール)

ビタミンDが不足すると骨の発育が妨げられ軟化し曲がってしまう「くる病」が知られています。ビタミンDには、カルシウムの腸管吸収、体内輸送、骨や歯への沈着を促す働きがあります。

別名のcalciferolとは、「カルシウムを運ぶアルコール性化合物」と言う意味だそうです。

ビタミンDは無色の針状結晶、水に不溶、有機溶媒には良く溶けます。空気に触れ光があたると酸化分解してしまいます。無酸素条件下では130℃くらいまで加熱しても安定しています。

ビタミンDは、キノコ類に含まれるビタミンD₂(エルゴカルシフェロール)と魚肉や魚類の肝臓に含まれるビタミンD₃(コレカルシフェロール)に分類されます。

干ししいたけ。ビタミンDが豊富。

ビタミンDの供給源は、食品以外にも皮膚のプロビタミンD₃(7-デヒドロコレステロール、プロカルシフェロール)がコレステロール生合成過程の中間体として存在し、日光の紫外線によりプレビタミンD₃(プレカルシフェロール)となり、体温による熱異性化でビタミンD₃(カルシフェロール)に生成されます。

ビタミンDは、ビタミンD依存性たんぱく質の働きを介して、腸管や肝臓でカルシウムとリン脂質の吸収を促進する作用があります。骨はコラーゲンを中心としたたんぱく質にリン酸カルシウムが沈着(石灰化)して形成されます。ビタミンDが欠乏すると、石灰化障害が起こります。小児ではくる病、成人では骨軟化症などです。

ビタミンDの軽度の不足の場合も、腸管からのカルシウム吸収の低下と腎臓でのカルシウム再吸収が低下します。その結果、低カルシウム血症となり、二次性副甲状腺機能亢進症が起こり、骨吸収が亢進、骨粗鬆症や骨折のリスクが高まります

ビタミンDの過剰摂取の障害として起こりうるのは、高カルシウム血症、腎障害、軟組織の石灰化などです。

★多量に含まれる食品:サバ、イワシ、カツオなどの魚類、牛乳など。
 シイタケにはプロビタミンDであるエルゴコレステロールとして含まれる。

ビタミンE(トコフェロール)

ビタミンEは、通常の食品摂取では、欠乏症や過剰症は発症しないとされています。トコフェロールの名はギリシャ語のtokosu(子ども)とpherein(生む)に由来します。

ヒトでは欠乏症は起こりにくいとされており、過剰症としては、出血傾向がみられます。

トコフェロールはどろりとした淡黄色の油状物で水に溶けず、有機溶媒によく溶けます。脂溶性ビタミンの中で、空気中酸素で最も酸化されやすいビタミンで、光にあたるといっそう速やかに分解してしまいます。このように自身は酸化されやすい反面、共存する他の油脂類の自動酸化を防ぐ働きがあります。

ビタミンEは、酸化防止剤として食品添加物としても使われています。

生体内でのビタミンEの働きは、生体膜を構成する不飽和脂肪酸や他の成分を酸化障害から防御する役割をしています。

摂取されたビタミンE同族体は、胆汁酸などによってミセル化された後、腸管からリンパ管を経由して吸収されます。その後、キロミクロンに取り込まれ、リポプロテインリパーゼによりキロミクロンレムナントに変換され肝臓に取り込まれます。

ビタミンEに対する最低健康障害発現量は、現在のところ存在しませんが、 2020年版の日本人の食事摂取基準では、800㎎/日として参照体重を用いて体重比から算出しています。

また、サプリメントのビタミンEの介入試験の結果において、科学的根拠は十分でなく、臨床データの裏付けがないことから、生活習慣病の発症予防や重症化予防の目標設定は見送られています。

しかしながら、通常の食事において、ビタミンE不足がおきることは稀ですが、脂質吸収障害によって吸収が障害されるので、高齢者など内臓機能が衰えているヒトには注意が必要です。

ナッツ類。ビタミンEが豊富。

★多量に含まれる食品:植物油、種実類、緑黄色野菜、魚卵など

ビタミンK

ビタミンKは、肝臓においてプロトロンビンやその他の血液の凝固を促進する機能があります。ビタミンKが不足すると出血が止まりにくくなります。血液の凝固因子であることから、ドイツ語のKoagulation(凝固)の頭文字をとって、ビタミンKと名づけられました。また、骨に存在するたんぱく質オステカルシオンを活性化、ビタミンK依存たんぱく質MGP(Matrix Gla Protein)の活性化を介して動脈の石灰化を抑制する重要な生理作用もあります。

他の脂溶性ビタミンの特徴と同様に、水に溶けず、有機溶媒に溶け、光によって分解されやすい性質を持つのに対し、空気中で比較的安定な性質が他の脂溶性ビタミンと異なります。

天然に存在するビタミンKは、ナフトキノンを共通の構造として、側鎖構造のみが異なるフィロキノン(ビタミンK₁)とメナキノン類があります。メナキノン類11種類の内、栄養上、特に重要なものは、動物性食品に広く分布するビタミンK₂と納豆菌が産生するメナキノン-7です。

わらづと納豆。ビタミンKが豊富。

近年ビタミンK₁に比べて、ビタミンK₂の効果が大きいことが報告されていますが、K同族体の相対的な生理活性の換算は困難とされています。

生体内のメナキノン類は、食事から摂取されるものの他に腸内細菌が産生する長鎖のメナキノン類と、組織内でフィロキノンから酵素的に変換するものがありますが、ヒトのビタミンKの必要量をどの程度満たしているのかは明らかではありません。

通常の食生活の健康なヒトには、ビタミンKの欠乏症は発症されないと言われています。

大腿骨近位部骨折とビタミンKの摂取量の関連を検討した最近のコホート研究によると、100㎍/日程度またはそれ以上を摂取していた群は、それ未満の摂取量の群と比べて発生率の低下が観察されています。骨折予防にはビタミンKを必要とすることが考えられますが、現状では正常な血液凝固を維持するのに必要なビタミンK摂取量を設定するのが妥当として、2020年版日本人の食事摂取基準では、目安量のみを設定しており、大量摂取による健康障害量を設定することはできないので、耐容上限量は設定されていません。

高齢者は胆汁酸塩類や膵液の分泌量の低下がみられますので、腸管からのビタミンKの吸収率が下がることがあります。
★多量に含まれる食品:納豆、緑黄色野菜、海藻など

参考図書:

「日本人の食事摂取基準2020年版」伊藤貞嘉、佐々木敏<監修>第一出版 厚生労働省

「管理栄養士・栄養士のためのアクセス生体機能成分」五明紀春、グュエン・ヴァン・チュエン、倉田忠男、谷本信也:共著 技法堂出版

「よくわかる生化学」津田道雄:著 金原出版

他の栄養素シリーズも参考になされてください。
第1回 たんぱく質
第2回 脂質
第3回 糖質