栄養素シリーズ 第2回 脂質

一般社団法人健康栄養支援センター
医療福祉栄養研究部
管理栄養士:日下千代子

脂質とは

生体内において、エネルギー源や身体の構成成分、生理活性物質(ホルモン、エイコサノイドなど)として、利用されます。脂質は有機溶媒にはよく溶けますが、水には溶けにくい化合物の総称です。

①細胞膜・ステロイドホルモンなどの主要な構成成分です。
②炭水化物やたんぱく質(1gあたり約4kcal)の2倍以上(1gあたり約9kcal)のエネルギー源となります。
③脂溶性ビタミン(ビタミンA・D・E・K)やカロテノイドの吸収を助けます。
④コレステロールは細胞膜の構成成分のほか、ホルモンやビタミンDの前駆体となります。

脂質は細胞膜などには欠かせない重要な栄養素なので、痩せるために極端な脂質の制限は避けるようにします。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、脂質の基準(%エネルギー)は1歳以上から20~30%を概ねの目標値としています。脂質1gあたりのカロリーは9kcalですので、1日2000Kcal必要なヒトの場合は、2000Kcal×20~30%÷9Kcal=44~66gが目標値となります。

脂質の分類

脂質は3つに分類されます。

①単純脂質:脂肪酸とアルコールのエステル。
 エステル:アルコール(OH基をもつ)と有機酸(-COOH)が脱水結合して生成する化合物
 例:アシルグリセロール(中性脂肪)、ロウ(ワックス)、ステロールエステル
②複合脂質:脂肪酸とアルコールのエステルにリン酸、糖、硫酸、アミンなどが結合した親水性をもつ化合物
 例:リン脂質、糖脂質
③誘導脂質:単純脂質や複合脂質の加水分解によって生成される脂溶性のもの
 例:脂肪酸、ステロイド、脂溶性ビタミン、コレステロール

脂肪酸

炭素(C)、水素(H)、酸素(O)の3種類の原子で構成され、炭素原子が鎖状につながった一方の端にカルボキシル基(-COOH)がついています。遊離型は少ないです。脂肪酸には、炭素の数や炭素と炭素のつながり方などの違いにより、様々な種類があります。

食品中に含まれる主な脂肪酸の例

炭素数二重結合数略記(注)名称と化学構造備考
20C2:0酢酸 CH3-COOH酢の酸味成分
40C4:0酪酸 CH3-(CH2)2-COOHバターやチーズなどに含まれる成分の一つ
160C16:0パルミチン酸
パーム油に多く含まれる成分
180C18:0ステアリン酸
ココアバターに多く含まれる成分
181C18:1オレイン酸
オリーブオイルの主要成分
182C18:2リノール酸
大豆油、コーン油、サフラワー油など植物油の主要成分
183C18:3α-リノレン酸
シソ油、エゴマ油などの主要成分
183C18:3γ-リノレン酸
月見草油など特殊な植物油に含まれる成分
204C20:4アラキドン酸
肉、卵、魚、肝油などに含まれる成分
205C20:5イコサペンタエン酸(又はエイコサペンタエン酸)〔EPA〕
魚油に含まれる成分
226C22:6ドコサヘキサエン酸〔DHA〕
魚油に含まれる成分

(注) 炭素数がx個で炭素-炭素間の二重結合の数がy個ある脂肪酸をCx:yとも表記します。

EPA、DPAが多く含まれる代表的な魚:イワシ
EPA、DPAが多く含まれる代表的な魚:イワシ

①飽和脂肪酸・・・パルミチン酸など
 増加すると血中LDLコレステロールが増加し、動脈硬化が促進されることが予想されます。ラード・牛脂などの動物性脂肪やパーム油、やし油などに多く含まれています。飽和脂肪酸はパルミチン酸とステアリン酸がもっとも多く、炭素数が12以上の飽和脂肪酸の融点は40℃以上なので通常は固体です。

飽和脂肪酸の食事摂取基準(%エネルギー)

18歳以上の年齢では目標量のエネルギー比は男女ともに7%以下を目標値とされています。平成28年度の国民健康栄養調査によると、その摂取量は18~29歳男性で17.4g(%エネルギー:7.6)、18~29歳女性で14.1g(%エネルギー:8.2)で、目標値より多い摂取量となっています。  

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」

②一価不飽和脂肪酸・・・オレイン酸など
 LDLコレステロールは増加させず、HDLコレステロールを減少させず、血中中性脂肪値を増加させないと言われています。植物油の一価飽和脂肪酸のほとんどはオレイン酸で、常温では液体です。オリーブ油やサフラワー油に多く含まれています。

③多価不飽和脂肪酸

Ⓐn-6系脂肪酸
  リノール酸、アラキドン酸などで人体内では合成できない必須脂肪酸です。欠乏すると皮膚炎が発生します。リノール酸はオレイン酸より酸化されやすい性質があります。炎症性物質を生成するので、多量摂取には注意が必要です。

n-6系脂肪酸の食事摂取基準(g/日)目安量

年 齢18~29歳30~49歳50~64歳65~74歳75歳以上妊婦授乳期
男 性11g10g10g9g8g
女 性8g8g8g8g7g9g10g

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」

Ⓑn-3系脂肪酸
 生体内では合成できないので、必須脂肪酸です。欠乏するとn-6系脂肪酸と同様に皮膚炎を発症します。α-リノレン酸、EPA、DHAなどです。血中中性脂肪値の低下、血栓生成防止作用、不整脈の発生防止、血管内皮細胞の機能改善などの作用があると言われており、n-3系脂肪酸の健康効果についてはそれぞれ個別の健康効果について研究が進められています。

n-3系脂肪酸の食事摂取基準(g/日)目安量

年 齢18~29歳30~49歳50~64歳65~74歳75歳以上妊婦授乳期
男 性2.0g2.0g2.2g2.2gg2.1
女 性1.6gg1.61.9g2.0g1.8g1.6g1.8g

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」

④炭素鎖の長さによる分類
 ❶長鎖(高級)脂肪酸:炭素鎖が14以上のもの。
 ➋中鎖(中級)脂肪酸:炭素鎖が8~12のもの。
 ❸短鎖(低級)脂肪酸:炭素鎖が6以下のもの

脂質の消化

 摂取する脂質は、長鎖脂肪酸のトリアシルグリセロール(中性脂肪)が大部分で、他はリン脂質やコレステロールエステルです。油脂が多く含まれる食事を摂ると満腹感が長く続くのは、次のような機序によります。
脂質が十二指腸に到達すると、消化管ホルモンであるコレシストキニン(CCK)やセクレチンが分泌されます。これらの刺激により、肝臓に蓄えられている種々の消化酵素(リパーゼも含まれる)が膵外分泌されます。このCCKと、同じように脂肪酸の刺激によって小腸下部から分泌されるエンテログルカゴンが胃酸分泌抑制作用を示すことで、胃内滞留が長くなるためです。

 主な脂質の消化の簡単な仕組みは次の通りです。

①トリアシルグリセロール(中性脂肪
 十二指腸で胆汁酸にて乳化され、膵液リパーゼでモノアシルグリセロールと脂肪酸にほとんどが加水分解されます。
②リン脂質
 ホスホリパーゼA₂により、リゾリン脂質と脂肪酸に加水分解されます。
③コレステロール
 コレステロールエステラーゼにより、遊離コレステロールと脂肪酸に加水分解されます。

脂質の吸収

代表的な中鎖脂肪酸のココナッツオイルは短時間でエネルギー源になります
代表的な中鎖脂肪酸のココナッツオイルは短時間でエネルギー源になります

生成されたモノアシルグリセロール、長鎖脂肪酸等は、胆汁塩とトリアシルグリセロールでミセルを形成し可溶化、小腸の上皮細胞の表面でミセルから抜き出され、細胞内でトリアシルグリセロールに再合成された後、他の脂質との複合体であるカイロミクロン(リポたんぱく質)を形成して、リンパ管を経て血液に入ります。血液に入ったそれらは、脂肪細胞(注1)や筋肉、組織でトリアシルグリセロールの70~90%を放出した後、肝臓に取り込まれます。脂質のうちグリセロールと短鎖・中鎖脂肪酸(注2)は門脈を通じ肝臓に取り込まれます。

(注1)脂肪組織(脂肪細胞)
(注2)MCT:中鎖脂肪酸(Medium Chain Triglyceride)

①白色脂肪組織
 腹部、臀部、大腿部、内臓周囲など全身のいたるところに存在し、大きな脂肪滴(50~100μm)で満たされており、必要な時に血中に放出して必要な臓器に送られます。
②褐色脂肪組織
 新生児では大量の褐色脂肪組織が見られますが、成長とともに減少し、成人ではほとんどみられなくなります。

 ココナッツやパームフルーツなどヤシ科植物の種子の核の部分に含まれる天然成分の中鎖脂肪酸(MCT)で、ココナッツオイルの60%は中鎖脂肪酸(MCT)です。中鎖脂肪酸(MCT)は、長鎖脂肪酸に比べて炭素数が少ないため長さが短く、水になじみやすい特徴をもつため、水に溶けやすい性質をもっています。したがって、糖などと同様に小腸から門脈を経由して直接肝臓に入り、分解されますので、中鎖脂肪酸(MCT)は一般的な油に比べて4~5倍も速く分解され短時間でエネルギーになります。

【参考】 https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/3/8/3_403/_pdf

吸収後の脂質

各組織に運ばれたトリアシルグリセロールは、リポたんぱく質リパーゼで脂肪酸とグリセロールに分解されます。脂肪酸は脂肪組織に取り込まれた場合は、トリアシルグリセロールに再合成され貯蔵されます。脂肪酸が筋肉などに取り込また場合はβ酸化を受け、代謝経路を経てエネルギー源として利用されます。グリセロールは各種細胞の解糖系に入ってエネルギーとして利用されたり、肝臓でトリアシルグリセロールの合成に使われます。

リポタンパク質の分類

 リポたんぱく質は密度のちがい、大きさ、トリアシルグリセロールの割合、たんぱく質の割合、組成等により、カイロミクロン、VLDL,IDL,LDL,HDLに分類されます。リポたんぱく質は、脂質異常症の診断基準となり、下表はその判断基準と表です。

脂質異常症の診断基準(空腹時採血)

LDLコレステロール140mg/dl 以上高LDLコレステロール血症
120~139mg/dl境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール40mg/dl 未満低HDLコレステロール血症
トリグリセライド(中性脂肪)150mg/dl 以上高トリグリセライド血症
Non-HDLコレステロール170mg/dl以上高Non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dl境界域高Non-HDLコレステロール血症

(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版より)

脂質の代謝

 脂質の代謝は、脂肪酸の分解と生合成、トリアシルグリセロールの分解と生合成、ケトン体、不飽和脂肪酸、リン脂質の生合成が肝臓や脂肪組織で様々なホルモンや酵素によって重要な体組成の一部や効率の良いエネルギー源となっています。臓器・組織のエネルギー源を下表にまとめてみました。

グルコース、絶食期間が長い場合はケトン体  *脂肪酸をエネルギーとして利用できない
肝臓ケトン体以外のすべて  *ケトン体をエネルギーとして利用できない
筋肉主に脂肪酸、グルコース、ケトン体、分岐アミノ酸(BCAA)、グリコーゲン
心臓ケトン体、脂肪酸、グルコース
脂肪組織グルコースと脂肪酸
赤血球グルコースのみ

他の栄養素との関係

①ビタミンB₁
 脂質のエネルギー代謝反応は、ビタミンB₁を必要としないので、糖質と脂質で同一エネルギー量を産生する場合、糖質に比べるとビタミンB₁の消費は節約され、脂質のビタミンB₁の節約作用と言われています。

②ビタミンB₂
 ビタミンB₂は、補酵素としてエネルギー代謝や物質代謝の役割を担っています。脂肪酸のβ酸化にも関わっていますので、脂質を多めに摂ったときはビタミンB₂の不足に注意します。レバー、卵黄、豆類(納豆など)、蕎麦、ニラ、あさり、アジ、牛乳、肉類などに多く含まれています。

トランス脂肪酸について

スナック菓子にはトランス脂肪酸が含まれいます。食べ過ぎに注意しましょう。
スナック菓子にはトランス脂肪酸が含まれています。食べ過ぎに注意しましょう。

トランス脂肪酸は自然界に由来(乳製品、肉に含まれる)するものと、工業的に水素添加を行った副産物としての工業由来の二つのものがあります。
日本人の摂取状況について、食品安全委員会は「トランス脂肪酸」(報告書)で、国民健康・栄養調査(平成15~19年)のデータを解析し、平均値、中央値ともに0.3%エネルギーと報告しています。
健康保持のために、トランス脂肪酸はなるだけ摂取しないように言われています。
工業由来のものは冠動脈疾患への影響がみられる報告がありますが、現状の日本人のトランス脂肪酸摂取量の範囲で疾病罹患のリスクになるかどうかは明らかになっていません。
しかしながら、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、『冠動脈疾患の危険因子であるので、目標量の算定を考慮する栄養素であるので、平均摂取量をさらに少なくし、多量摂取者の割合を少なくする具体的な対策が望まれる』としています。
消費者庁は、食品事業者に対して、トランス脂肪酸を含む脂質に関する情報を自主的に開示する取組を進めるよう求めおり、ホームページ等でトランス脂肪酸の含有量を調べることができます。

【天然に含まれるもの】
牛や羊などの反芻動物は、胃の中の微生物の働きで、トランス脂肪酸が作られ、牛肉や羊肉、牛乳や乳製品の中にトランス脂肪酸が含まれています。

【工業的につくられるもの】
水素添加によって製造されたマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなどにトランス脂肪酸が含まれています。植物油を精製する工程で高温処理による脱臭を行う際に、植物に含まれているシス型の不飽和脂肪酸からトランス脂肪酸ができるため、サラダ油などの精製した植物油にも微量のトランス脂肪酸が含まれています。

〔参考資料:「日本人の食事摂取基準(2020年)」

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