【食材シリーズ】味噌:大豆と麹のチカラ

著者 プロフィール
医療・福祉栄養研究部所属 管理栄養士
M・I

味噌とは

味噌は大豆、麹、塩を原料にした発酵食品です
弥生時代や奈良時代にはすでに味噌に近い調味料は存在していたようで、古くから日本人の食生活には欠かせない調味料です。
味噌汁はもちろん、肉や魚などを味噌に漬けたり、野菜などにつけてそのまま食べたり、炒め物や煮込みなど様々な料理に使用されています。
味噌を使用したクッキーやパンなどを見かけることもあります。
この身近な味噌について、今回は述べていきたいと思います。

味噌の種類

とてもシンプルな材料で作られますが、麹の種類発酵・熟成の長さ塩分量などによってさまざまな種類があります。

●麹について

加熱した穀類に麹菌を加え繁殖させたものを麹といいます。
味噌に使用される麹は米麹と麦麹の2種類です
例えば米麹は、蒸した米に麹菌を加え繁殖させたもので、この作業を製麹(せいぎく)といいます。
どのような麹を使用しているかによって、「米味噌」「麦味噌」「豆味噌」に分類されます。
※豆味噌は材料の大豆に直接麹菌を付ける。豆麹といわれることもある。

<麹菌の働き>
麹菌はたんぱく質をアミノ酸に分解する「プロテアーゼ」や、でんぷんを糖に分解する「アミラーゼ」、脂質を脂肪酸とグリセリンに分解する「リパーゼ」など、たくさんの酵素を生成します。
味噌の場合、この酵素の働きによって、材料に含まれているたんぱく質や糖質、脂質が分解され、うま味や甘味の成分、香りが作られ、味噌ならではの味わいになります。
さらに、大豆などが柔らかくなったり栄養素が分解されることで、体内への消化・吸収がされやすくなったりもします。

麹
米麹

●発酵について

「発酵」とは、微生物の力によって食品が変化し、人間にとって有益な成分を作り出す働きのことを言います。
逆に、有益でない=有害な成分ができてしまう場合を「腐敗」と言います。
発酵することにより食品の成分が分解され、もとの食品にはない味や香りが生まれます。
味噌の場合、麹により発酵が進みます。上記でも述べたように、材料に含まれている成分が分解されることによりうま味や甘味、香りの成分が作られ、味噌ならではの味わいになります。
また、麹の量や熟成期間もうま味や甘味、香り、特に色に影響します。発酵・熟成期間が長いほど味噌の色は濃くなります。
味噌は色によって「白味噌」「淡色味噌」「赤味噌」に分類されています。

<発酵・熟成期間と味噌の色>
大豆にはたんぱく質、脂質、糖質(しょ糖など)などが含まれています。このうち、味噌を作る時の発酵・熟成中にたんぱく質と糖質がメイラード反応(アミノカルボニル反応)を起こし、茶色に色づき香ばしい香りが発生します。
また、保存期間中にもこの反応は徐々に進むため、発酵・熟成期間が長いほどメイラード反応は進み、味噌の色は濃くなります。

みそ
左から白味噌・淡色味噌・赤味噌

●塩について

塩は味噌の保存性に関係します。
また、味噌の味に関わる大事なものです。塩分量によって「甘味噌」「甘口味噌」「辛口味噌」などの味の分類があります。
一般的な塩分量と麹の使用量を記します。

<味噌の味による分類>
甘口味噌・・・塩分5~7%、大豆より麹の割合が多い
甘 味噌・・・塩分7~12%、一般的には大豆より麹の割合が多いが、甘口味噌に比べると少ない。
辛口味噌・・・塩分11~13%、麹より大豆の割合が多い

このように、味噌は麹の種類や発酵・熟成期間の長さ、塩分量などによってさまざまな種類があり、色や味による分類が存在しますが、正確な分類が困難です。しかし、消費者に適切な味噌の表示をするために、「みそ品質表示基準」が定められており、この基準においては主に麹の種類によって「米味噌」「麦味噌」「豆味噌」「調合味噌」の4種類に分類されています。今回はこれに基づいて解説していきます。

a.米味噌

全国で生産されており、最も消費量の多い一般的な味噌です。市販の味噌の80%程度を占めています。
信州味噌、仙台味噌、白味噌(関西白味噌、府中味噌など)などがあります。
●原料
大豆、米麹、塩
●作り方
大豆に水を吸水させ、そのあと蒸して加熱します。
 加熱した大豆をつぶし、米麹、塩を加えて混ぜ、発酵・熟成させます。一般的には6か月~1,2年熟成させます。
特徴
米麹と大豆の割合が味に関わります。
 米麹の使用量が多い=米の使用量が多い、ということになります。
 米にはでんぷんが多く含まれており、このでんぷんが麹菌によって分解され、ぶどう糖や麦芽糖などの糖類が増加します。
そのため、甘味の強い味噌が出来上がります。また、米麹の使用量が多いほど、たくさんの麹菌が存在するということに
なるため、短期間で味噌を作ることができます。

<大豆と麹の割合>
大豆(吸水前)に対して麹をどれくらい使用しているか、を麹歩合といいます。
大豆と麹の使用量が1:1の場合、「10割麹」といいます。
大豆と麹の使用量が1:1.2の場合は「12割麹」、大豆と麹の使用量が1:2の場合は「20割麹」となります。
味噌を購入する際に記載されていることもあるため、参考にすると良いでしょう。

●代表的な米味噌
<信州味噌>
長野県味噌工業協同組合連合会加盟の味噌メーカーにより、長野県内で製造されている味噌のことを「信州味噌」といいます。
全国の生産量の約40%を占める代表的な米味噌で、色は淡色、味は辛口であることが特徴です。

<白味噌>
白味噌というと西京味噌がイメージされますが、
もともと西京味噌という名前は、関東の地域でつけられた名前であり、「西の京の味噌」という意味になります。京都のイメージが強いかもしれませんが、関西では広く生産されています。
白味噌の特徴は、
麹の割合がとても多い熟成期間は1~2週間と短い塩分が5~7%と少なく甘口である ことです。
①麹の割合についてですが、大豆と麹の割合は1:2(20割麹)以上のものもあります。
米味噌において麹の使用量が多いということは米の使用量が多いということになり、米由来の甘味がたっぷりの味噌になります。
②麹の割合が多いため、たくさんの麹菌が存在することになり米や大豆の発酵が早く進みます。そのため、通常の米味噌は最低でも半年程度かかるところ、白味噌では1~2週間という短期間で味噌が完成します。
③塩分は5~7%と低く、一般的な米味噌の半分です。もし、信州味噌をこの塩分で作り半年~1年程度味噌を作ると、腐敗してしまう可能性があります。しかし白味噌の場合、麹の使用量が多く短期間で味噌が完成するため、塩分が少なくても味噌作りの途中で腐敗は起こりません。
ただし、完成してからの賞味期限は、一般的な味噌より短くなるため、注意が必要です。
また、塩分が少ないことは健康面から魅力的ですが、米麹の使用量が多いため糖質の量は多くなります。

白味噌は関西や広島県(府中味噌)、香川県(讃岐味噌)で主に生産されています。
ちなみに関西では正月の雑煮は白味噌を使用することが多く、年末年始限定で、通常にくらべて麹の使用量が多い
白味噌を販売しているメーカーもあります。中には30割麹の白味噌などもあったりします。
※麦味噌の白味噌もあるが、一般的に白味噌と販売されているものはほとんどが米味噌である。

b.麦味噌

市販の味噌の約5%程度を占めています。九州や山口県、愛媛県などで生産されており、「田舎味噌」とも呼ばれています。
九州麦味噌、瀬戸内麦味噌、薩摩味噌などがあります。
●原料
大豆、麦麹、塩
 麦には大麦や裸麦が使用されることが多いです。
●作り方
大豆に水を吸水させ、そのあと蒸して加熱します。
  加熱した大豆をつぶし、麦麹、塩を加えて混ぜ、発酵・熟成させます。
●特徴
米味噌と同様、麦麹と大豆の割合や熟成期間が味や色に関わります。

c.豆味噌

市販の味噌の約5%程度を占めています。東海地方で生産されており、八丁味噌が有名です。
●原料
大豆、麹菌、塩
●作り方
蒸した大豆をおにぎりのように丸めて固め、それに麹菌を付けて発酵させます。
●特徴
米味噌や麦味噌は、米麹や麦麹を大豆と混ぜる、という作り方ですが、豆味噌は大豆に直接麹菌を付けていきます。
そのため、ほぼ100%大豆でできている味噌ということになります。
米や麦のでんぷん由来の糖類が発生しないため、甘味はほとんどありません。
甘味があまり感じられない分、塩味をしっかり感じる味噌となります。
一方、大豆の使用量が多いため、大豆由来のうま味があります。
また、ほとんどの豆味噌は2年以上熟成されるため、味噌の色は濃くなり、一般的には「赤味噌」とも呼ばれています。
発酵・熟成期間が長いため、さまざまな成分が分解されており、苦味や渋味、独特の香りもあり、複雑な味わいとなります。

d.調合味噌

米味噌、麦味噌、豆味噌のうち、異なる2種類以上のみそを合わせたもの、もしくは、味噌を作る時に複数の麹を混合して作ったものなどを指します。

味噌の栄養

味噌の主な原料は大豆です。
大豆には、たんぱく質と脂質が多く含まれています。
他、食物繊維、ビタミン類、ミネラル類を含み、健康に役立つ食品として知られています。
しかしながら、これまで述べてきたように味噌の種類によって含まれている大豆の割合は異なります。最も生産量の多い米味噌で、大豆の割合は46%程度のようです。これより大豆の割合が多い味噌もあれば、少ない味噌もあります。
そのため、大豆由来の栄養素がどれくらい含まれているかは味噌によって大きく変わります。
以下は大豆と標準的な味噌の栄養成分例です。

味噌の成分
味噌の成分

●味噌汁について

味噌は味噌汁として食べることが多いですが、やはり気になるのは塩分です。
味噌汁1杯に使用する湯を160mL、味噌を10gとした場合、
一般的に使用されることの多い「米味噌 淡色辛みそ」で、10gあたり31kcal、食塩相当量は1.2gとなります。
2020年度版食事摂取基準においては、男性7.5g未満、女性6.5g未満とされています。
1日3回味噌汁を摂ると3.6gとなり1日の半分を摂ることになります。そのため、みそ汁は1日1杯くらいが良いでしょう。
ただし味噌汁は、工夫をすることで塩分を少なくすることができます。また、旬の食材を手軽に食事に取り入れたり、自分の好みの食材や健康面を意識したものに仕上げたりすることもできます。

具だくさん味噌汁


<塩分を少なくする工夫>
・ だしをしっかりとる
  だしのうま味を活かすと、味噌の使用量を少減らしてもおいしく感じやすくなります。
・ 具だくさんにして、汁の摂取量を減らす
<具の工夫>
以下の画像は、具を工夫して健康に役立てるポイントをまとめたものです。ぜひ参考にしてみてください。

味噌汁の工夫
味噌汁の工夫

さいごに

味噌は、健康面についてさまざまな研究が進んでおり、体に良いという研究が多くありますが、摂り過ぎると塩分の過剰につながります。しかし、味噌にはさまざまな種類があり、レシピの幅を広げることに役立ちます。
麹の種類や味、色によって使い分けたり、自分の好みの味噌を探してみると良いのではないでしょうか。

<参考>
・消費者庁 みそ品質表示基準
 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/quality_labelling_standard/pdf/kijun_48_111031.pdf
・農林水産省 aff 2010年 10年12月号 お国自慢みそマップ(2)
 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1012/spe2_02.html
・農林水産省 大豆の豆知識
 https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/daizu/d_tisiki/index.html
・大源味噌
 https://daigen-miso.co.jp/blog/2020/02/10/%E5%91%B3%EF%BC%88%E7%94%98%E3%83%BB%E8%BE%9B%EF%BC%89%E3%81%AE%E5%88%86%E9%A1%9E/
・信州MISOラボ 長野県味噌公表共同組合連合会公式サイト 信州みそ巡り
 https://shinshu-miso.or.jp/learn
・九重味噌製造 
 https://www.kokonoemiso.com/shiromiso/saikyoumiso-and-siromiso-chigai/
・醤油・味噌・酢はすごい ; 小泉武夫 ;中公新書; 2016年

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