【食材シリーズ】牛乳②:ほかのミルクとの違いは?ジャージー牛乳ってなに?
著者・プロフィール
医療・福祉栄養研究部所属 管理栄養士
M・I
前回は牛乳の種類と成分についてお話ししました。
今回は乳牛の種類や調理特性についてお話ししたいと思います。
Contents
乳牛の種類
牛乳のパッケージに「ジャージー牛乳」などの表示を見たことはありませんか?
牛乳は牛のミルクを搾ったものですが、その牛(乳牛)にもいろいろな種類があります。乳牛の種類によって乳脂肪分などに違いがあるため、味わいにも差があります。
ホルスタイン種
白と黒の模様の牛で、世界中で最も多く飼育されており、日本で飼育されている乳牛の99%はホルスタイン種です。
そのため、私たちが飲んでいる牛乳はほとんどがホルスタイン種となります。乳量が多いことが特徴で、乳脂肪分は3.8%程度です。
ジャージー種
茶色の毛並みの牛で、日本ではホルスタイン種の次に頭数が多く、約1万頭が飼育されています。
乳量はホルスタイン種に比べると少ないですが、乳脂肪分が5%前後と多くなっています。
そのため、ジャージー種の牛乳は濃厚な味わいがあります。
ブラウンスイス
少し黒っぽい茶色の毛並みの牛で、日本では約1,000頭が飼育されています。乳脂肪分は約4%でたんぱく質の含有量が多いといわれ、バターやチーズの加工に適しています。
ガンジー種
白と茶色の模様の牛で、日本で飼育されている数は約200頭と、とても少ないです。
乳量が少ない(ホルスタイン種の約半分)ですが、栄養価は少し高いようです。
このため、希少性から欧米では昔から「ゴールデンミルク」や「貴族の牛乳」といわれているようです。
牛乳の保存
牛乳には賞味期限として味や安全性の品質が保たれる期間が記されています。
これは開封していない状態で、冷蔵保存(10℃以下)にした場合の期限です。開封後はできるだけ早く(目安として2日間)飲むのが良いでしょう。
ここでは保存性に特徴のある2つの牛乳を紹介します。
低温殺菌牛乳
一般的な牛乳は120℃~150℃、1~3秒の超高温瞬間殺菌法によって殺菌されています。
これに対し、低温殺菌牛乳は63℃~65℃ 30分で殺菌されたものです。
牛乳を高温で加熱すると、加熱臭が発生し、これが牛乳独特の香りとなっていますが、
低温で殺菌すると、加熱臭が抑えられます。そのため、牛乳本来の味と香りを味わうことができ、牛乳が苦手な人でも低温殺菌牛乳であれば飲むことができる、ということもあるかもしれません。ただし、低温殺菌牛乳は賞味期限が短く設定されているものが多いため、注意しましょう。
ロングライフミルク(LL牛乳)
通常の牛乳は冷蔵庫での保存が必要ですが、常温保存が可能な牛乳のことをロングライフミルク(常温保存可能品)といいます。
超高温瞬間殺菌法よりさらに高い温度である130℃~150℃ 1~3秒で殺菌され、滅菌した容器に無菌状態で牛乳を充填します。容器の構造にも特徴があり、紙容器にアルミ箔を貼り合わせ、光と空気を遮断した構造になっています。
他、生乳の細菌数、アルコール試験、容器の破裂強度などにも規定があります。
未開封の状態で2ヶ月程度、常温保存が可能であるため、防災の面からも注目されています。
牛乳の選び方
このように、牛乳といっても、乳牛や、殺菌方法の違いなどによっていろいろな種類があります。パッケージの情報を確認して好みの牛乳を選んでみましょう。
前回紹介お話した牛乳の種類について表にまとめましたので参考にしてみてください。
<選び方のヒント>
●牛乳本来の味を楽しみたい
種類別名称に「牛乳」と記載のあるもの
●より搾りたてに近い、牛乳本来の味を楽しみたい
「低温殺菌牛乳」と記載のあるもの、ノンホモ牛乳
●脂肪分やエネルギーが低いものを選びたい
低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、乳脂肪分が少ない成分調整牛乳や加工乳
●とにかく濃い味わいを楽しみたい
ジャージー種の牛乳、乳脂肪分が多い成分調整牛乳や加工乳
牛乳の代わりに利用されているミルク
牛乳の代わりに豆乳が使用されることは多くあります。また最近は、アーモンドミルクやオーツミルクなど新しいミルクも販売されています。栄養面ではどのように違うのでしょうか。
●豆乳
大豆を搾ったものです。エネルギーは牛乳に比べると低いですが、カルシウムの量も少なくなっています。
大豆に特徴的に含まれる成分としてイソフラボン(ポリフェノールの一種)があります。イソフラボンは女性ホルモンと構造が似ており、女性の健康をサポートする働きがあるといわれています。
●アーモンドミルク
アーモンドを搾ったものです。エネルギーは牛乳に比べると低いですが、たんぱく質やカルシウムの量も少なくなっています。しかし、アーモンドミルクには、牛乳にはほとんど含まれていないビタミンEや食物繊維が含まれています。
●オーツミルク
燕麦(オーツ)を糖化させ加工したものです。エネルギーは牛乳に比べると低いようですが、たんぱく質やカルシウムの量も少なくなっています。市販のものは、原材料に食塩や砂糖、ビタミンを添加させたもの等が多く、それによって成分は変わります。
カルシウムを摂りたいときは、牛乳が良いでしょう。
また、豆乳やアーモンドミルク、オーツミルクは、飲みやすくするために砂糖や塩、油脂などを加えたり味付けをしているものも多いため、原材料の表示をよく読んで、自分に適したものを選びましょう。
牛乳の調理特性
牛乳は、さまざまな料理やお菓子に利用されます。どのような調理特性があるか、見ていきましょう。
酸によるカゼインの凝固作用
カゼインは牛乳のたんぱく質の約80%を占めています。カゼインは酸を加えると凝固する(固まる)特徴を持っています。チーズやヨーグルトはカゼインが酸によって凝固する特徴を活かした食品です。
調理特性として、クエン酸やリンゴ酸を含む野菜や果物、コハク酸を含む貝類などと一緒に牛乳を加熱すると、牛乳のカゼインが酸によって凝固し、分離してしまうことがあります。
これを防止する方法として、①野菜などはあらかじめゆでて酸を除いておく、②牛乳は最後に加え加熱時間を短くする、などすると良いでしょう。
乳清たんぱく質の熱変性 ~ラムスデン現象~
乳清たんぱく質は、牛乳のたんぱく質の約20%を占めており、60~65℃以上の熱で凝固します。
牛乳を温めると、表面に膜ができたことはありませんか?
これは、ラムスデン現象と呼ばれているもので、加熱によって牛乳表面の水分が蒸発し、表面の乳清たんぱく質が濃縮、凝固するために起こる現象です。またこの時、脂質を吸着していきます。そのため、この膜はたんぱく質と脂質で主にできています。
膜を取り除くと、残った牛乳の味は少し薄く感じます。
これを防止する方法として、①60℃以上にならないように加熱する、②ゆっくりとかき混ぜながら加熱する、などするとよいでしょう。
臭みを吸着する作用
たんぱく質のカゼインや脂肪球には臭みを吸着する働きがあります。
レバーなどの下処理として、牛乳に浸けておくと生臭みが減少します。
凝固剤によるゲル強度の変動
ゼリーなどを作る時は、寒天、ゼラチン、カラギーナンなどの凝固剤を使用することが多いと思います。
牛乳を使用してミルクゼリーを作る場合、寒天ではゲル強度が低下し、噛んだ時崩れやすいゼリーとなります。
ゼラチンやカラギーナンではゲル強度が強くなり、弾力性が高まったゼリーとなります。
寒天を使用するとゲル強度が低下するのは、牛乳のたんぱく質のカゼインや脂肪球がゲルの網目構造の形成を阻害的するためといわれています。
逆に、ゼラチンやカラギーナンを使用するとゲル強度が高まるのは、牛乳のカルシウムなどがゼラチンの凝固を促進するためといわれています。
ところで、「フルーチェ」はご存知でしょうか。皆さんも一度は食べたことがあるのではないでしょうか。これは、フルーツソースに含まれている食物繊維の一種であるペクチンが、牛乳のカルシウムと反応し網目構造を形成することを利用した商品です。カルシウムの少ないタイプの牛乳や豆乳などを使用しても、うまく固まらないことがあるため注意が必要です。
食感をなめらかにする、コクを与える。
牛乳に分散している脂肪球により、なめらかな食感になり、コクを与えます。
この働きを利用し、現在「乳和食」というものが広まりを見せています。
和食は栄養バランスに優れた健康的な食事という点からもユネスコの無形文化遺産に登録されています。しかしながら、醤油や味噌などの調味料、漬物など保存性を高めるために塩分が多い食材を使用していることが問題視されていることも事実です。
塩分を摂り過ぎると血圧が高くなり高血圧症、さらには動脈硬化症などの危険性も高めます。
そのため、減塩を進めていくことは大きな課題となっています。
このとき、減塩をしたときに失われがちな「コク」などを補う目的で、和食に牛乳を使用していくという考え方として、「乳和食」があります。味噌汁の味噌の使用量を減らした代わりに牛乳をプラスしてコクを与え減塩するなど、さまざまな方法が注目され始めてます。
牛乳はカルシウムの補給源として役立つ食品です。
また栄養面だけでなく、楽しみ方もさまざまです。ぜひ、普段の食事に牛乳を取り入れてみましょう。
<参考資料>
・全国肉用牛振興基金協会 https://nbafa.or.jp/knowledge/dairy01.html
https://www.j-milk.jp/findnew/chapter1/0101.html
・森永乳業
https://www.morinagamilk.co.jp/learn_enjoy/knowledge/index.html
・藤井恵子、赤堀博美、川辺知子、川畑章子、大越ひろ、中濱信子(2001)、日本調理科学会誌、Vol.34、No.3、261~269、ゲル化剤の異なるミルクゼリーの性状について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej1951/28/8/28_8_525/_pdf
・乳和食 https://www.j-milk.jp/nyuwashoku/about.html
<関連ページ>
・【食材シリーズ】牛乳①実はこんなにたくさんの種類が! (hns-japan.com)
・いつまでも元気に 骨太ライフ|骨の健康について管理栄養が徹底解説 (hns-japan.com)
・【食材シリーズ】味噌:大豆と麹のチカラ|わかりやすく解説 (hns-japan.com)