ごまと食
カタギ食品株式会社 社長室 商品開発課
課長 松本理美
「あなたは、あなたが食べたものでできている」という言葉を聞かれたことはありますでしょうか。
私がこの言葉を初めて耳にした年頃は覚えていませんが、
TVから流れるCMのフレーズだったことは記憶しております。
当時の私は当然のことを言っているなぁと、あまり気に留めておりませんでしたが、心のどこかに残っていました。
時を経て、高校生になった私は進路を決める際、大きな夢や志はなく、
強いていうなら料理をすること、食べることに興味があったので、栄養士の資格を目指すことで、食についての知識や技術、そしてそこから進めていく未来へのステップとして、大学に進学いたしました。大学で学んでいくうちに、食べることがカラダを作り、整え、パワーをつけるメカニズムに興味を持ちました。
食べたものがどのように消化され、吸収されていくのか、自分のカラダにどのような影響を与えるのか、美味しいだけでない「食べる」という裏側に緻密な営みがあるのだと不思議に感じていました。
「食べたものがカラダを作る。」それは、カラダにとっていいものを摂れば、調子は整うし、
相性が悪いものや無理な食事をしていれば調子を悪くするという、
シンプルですが、自分の調子は自分で整えることができるということです。
ふと、学んでいる中で、先述したフレーズが思い起こされ、飛躍した解釈ですが、
元気な自分を作るのも自分であり、すべては自分次第という風に聞こえました。
食だけでなく人としての生き方みたいなものも感じることができ、希望を抱きました。
社会にでると、交友関係も広がり、世代を超えたお付き合いも増え、
「食」は人間関係を形成するツールでもあることに気づきました。
友達の誕生日会や職場での会食、一人で食べる食事、家族との日常的な食事、など、
「食べる」ということは、単に食べたものだけではなく、誰とどんな時に、
どのような気持ちで食べたのか。食を取り巻く空間や状況なども「自分」という人格を育んでいることを感じ、あのフレーズは奥深いなとじわじわと沁みています。
だからこそ一食一食を大事にしたいなと思いますが、実際のところまだまだ未熟者で、精進したいところではあります。
さて、このような私ですが、食を提供する仕事に携わりたいと思い、
ご縁があってカタギ食品に勤めております。創業100年を超える老舗ごま専業メーカーです。
誰しもが「ごま」は健康的な食べ物というイメージがあり、
実際、「まごはやさしい」という標語の食材の一つにもなっており、素晴らしい食材です。
豆類・胡麻・わかめ(海藻類)、野菜、魚、シイタケなどのキノコ類、イモ類と云った
古くから体に良いとされる食品の頭文字をとったものです。
しかし、それはほんの一面でしかなく、ごまの歴史や植物としてのごまなど、多角的にみると理解が深まり興味深い食材です。
そもそも、和食の素材だと思っていたごまですが、発祥の地はアフリカのサバンナ地帯と言われており、そこからシルクロードなどを伝って、日本にやってきました。
ごまの歴史は古く、6000年以上前から栽培されていたようです。
日本に伝ってくるまでに、エジプトではクレオパトラのボディオイルとなったり、
中国ではごまは内臓機能を整えたり、病気や衰えた体を治すといわれ、重宝されたり、韓国では薬膳料理に使われるなど、食物としてだけではなく、美容・医療としても利用されてきました。
日本でも仏教伝来とともに精進料理に使われたり、千利休がごまを好み、利久料理(ごま料理)が生まれるなど、日本人の食生活を支える役割を担ってきました。
また、油糧作物でもあった為、ごま油は貴重な熱源として利用されたり、佐賀県の鍋島藩では正装の裃(かみしも)の柄に「胡麻柄紋」を採用するなど、重宝されていたことがうかがえます。
長い歴史を経た現在も、食べ方もさほど変わらず、日本人の食生活に馴染んでいるということは、
使いやすく、美味しいと評価されてきたのだと思われます。
一方、栄養価の面からごまを見ると、昔から健康・美容によいとされてきた根拠が伺えます。
ごまは脂質が約50%も占めておりますが、そのほとんどは不飽和脂肪酸であり、
血清LDLコレステロール値を下げると言われております。
また、抗酸化成分のセサミンはビタミンEの抗酸化力をアップさせたり、
LDLコレステロールの酸化を防ぐ、アルコール分解機能を高めると言われております。
また、アミノ酸スコアでいえば、ごまは100に達しておりませんが、含硫アミノ酸含量が高いので、
この含量が少ない大豆製品とごまを組み合わせて食すことで、アミノ酸の補足効果も期待できます。
一回の食事でたくさん食べることはないですが、毎日少しずつ工夫して「ごま習慣」を実践してきたいですね。
その優秀なごまですが、先述の通り、発祥の地はアフリカのサバンナ地帯で、長い道のりを経て日本に伝わってきました。そもそも熱帯地域で生まれた植物で、乾燥に強く、多少水を与えない日が続いても、たくましく育つ作物です。
しかし、機械を使った収穫が難しく、労働力のある小作農の栽培が中心となっています。
ごまメーカー各社で産地はさまざまで、ごまの種類によっても異なりますが、決して選択肢が多いわけではありません。
カタギ食品では、南米大陸・アフリカ東海岸諸国・トルコ・エジプトといった地中海沿岸を主産地として、営農をともに考える関係性を築いて買い付けております。
だからこそ、カタギ食品がパイオニアと言われる「有機ごま」が誕生したのは必然だったのかもしれません。
カタギ食品に入社したての頃の私は、「有機食品」というのは食べる人の安心と安全を保証するものという漠然とした認識でしかありませんでした。
しかし、カタギ食品の有機ごまのポリシーを知ったとき、
生産者や環境にも配慮する有機食品への理解をより深めることができました。
それは、消費者の安心・安全はもちろん、生産していただいている方々や農地・水の農薬被ばくを軽減する、そのためのコストを関連する生産者や現地企業や日本の流通業者、そして消費者が分かち合い、その仕組みを循環させるというものです。
カタギ食品がそのポリシーを持って「有機ごま」を開発したことは、今日でもごま専業メーカーとしての強みとなっています。
我々はそのポリシーを守り、次世代に伝えていかないといけません。
また新しい価値観も取り入れ、伝えるべきもの、変わりゆくものを見極め、
消費者の方に必要とされる商品作りや発信に切磋琢磨していかなければなりません。
ごま専業メーカーの発信として、ごま食文化を絶やさないためにも、
レシピ提案やごま情報発信、料理教室の開催などをさせていただいております。
料理教室では、すり鉢でごまをすって香りを楽しんでいただくことがございます。
摺ったごまの香ばしい香りを感じた瞬間や、さらにもっと摺ってねりごまにしてみたいという
無邪気なお子様の姿なども拝見させていただくこともございます。
日常に戻れば、ごまを摺る事は少ないでしょうが、心を動かされた感動が、食に対しての興味や感謝、探求心につながると思います。
「食べる」ことはカラダを作るだけでなく、「美味しい」や、「発見」、「安心」など様々な経験値となり、「食」を通して自分という人間を築いていることを再認識させていただきました。
「あなたは、あなたの食べたものでできている」をごまを通して、感じられたこと、
そして、微力ながらも皆さまの食に貢献させていただける仕事に携わっていることに喜びを感じています。
現状に満足せず、「ごま」の魅力を感じていただき、食べていただけるように、今後も発信し続けてまいります。
参考文献:福田靖子著 「科学でひらくゴマの世界」建帛社