栄養素シリーズ 第5回 水溶性ビタミン

一般社団法人健康栄養支援センター
医療福祉栄養研究部
管理栄養士:日下千代子

ビタミンとは(第4回の再掲)

微量で動物の栄養を調整し、身体の内で合成できないため食事から摂る必要のある有機化合物です。ここでの微量とは、1日当たりの必要量が100㎎程度以下を指します。動物の体内で合成できないとは定義されていますが、はっきりと線引きすることは難しいです。ビタミンB₂、Kなどは腸内の細菌によって合成されます。また、βカロテンのように、それ自体ビタミン作用がなくても、体内でビタミンAに変化するものもあります。
「日本人の食事摂取基準」では、ヒトに必要なビタミンとして、脂溶性ビタミンを4種、水溶性ビタミンを9種、計13種類が記載されています。そのほとんどは20世紀前半に発見されたものです。しかし、個々のビタミンの詳しい作用については、不明な点が残されています。
有機化合物としては、ビタミン類は複雑な構造をしており、化学構造のパターンによって分けるのは難しく、その生理作用も異なります。
ビタミンを溶解性の違いで、脂溶性ビタミン、水溶性ビタミンに分けます。この違いは単に溶媒への溶解性が異なるだけでなく、体内での挙動が違うので、ビタミンを理解する上で大事なポイントになります。
脂溶性ビタミンは蓄積しやすい一方、水溶性ビタミンは飽和量があり、過剰分は尿中に排出されてしまいます。つまり、脂溶性ビタミンは過剰症を起こしやすく、水溶性ビタミンは欠乏症を招きやすくなります。
脂溶性ビタミンは一般に細胞膜組織のような構造に組み込まれているのに対し、水溶性ビタミンは血液、組織液などの体液中に溶解して分布しています。
脂溶性ビタミンは皮膚の垢あるいは腸粘膜剥離によって糞中に排出され、水溶性ビタミンは主に尿中に排出されます。

水溶性ビタミン
水溶性ビタミンは水に溶けるという点を除いて千差万別で、そのほとんどは体内で補酵素の構成成分として作用をあらわします。

ビタミンB₁(チアミン)
炭水化物の代謝(体内燃焼)に不可欠の因子で、最初に見つかったビタミンといわれています。これが欠乏すると、食欲不振や疲れやすくなるのはもとより、神経炎や脳組織への障害が生じます。
ビタミンB₁欠乏症は、脚気とウェルニッケ-コルサコフ症候群があります。
チアミンと言われるのは、thio(硫黄)とamine(アミン)の合成語のためです。
チアミンにニンニク汁を混ぜるとアリチアミンという脂溶性化合物に変わり、小腸からの吸収がよくなり、体内で元のチアミンに戻って、B₁作用を発揮します。
チアミンは、水溶性ビタミンのうちでも特に水に溶けやすく、米を研ぐと溶脱しやすいのです。また、120℃以上に加熱すると、ピリジミン環とチアゾール環に分かれてビタミン効力を失ってしまいます。
酸性では安定しますが、アルカリ性では不安定です。
食品を調理・加工する過程や胃酸で遊離したThDPは、加水分解されて、チアミンとなり、空腸と回腸で能動輸送されて吸収されます。この過程は食品ごとに異なり一緒に食べた食品に影響を受けることも推測されます。相対生体利用率は60%程度と報告されています。
ビタミンB₁の摂取が多くなると、肝臓、血液中の量が飽和し、尿中にビタミンB₁が排泄されます。
ビタミンB₁の必要量は、主要な役割であるエネルギー産生栄養素の異化代謝の補酵素なので、エネルギー消費量で算定することが重要です。したがって、ビタミンB₁の必要量はエネルギー要求量に応じます。
過剰摂取となる食品は見当たらないため、通常の食品摂取では過剰摂取による健康障害が発現した報告は見あたりません。
ビタミンB₁摂取と生活習慣病の発症予防や重症化予防の関連を示す報告はありません。

豚のスペアリブ

ビタミンB₂(リボフラビン)
ビタミンB₂は、補酵素としてエネルギー代謝や物質代謝に関与しており、動物の成長促進因子として見つかったビタミンです。エネルギー代謝のTCA回路、電子伝達系、脂肪酸のβ酸化等に関わっています。したがって、不足すると成長抑制を引き起こします。また、欠乏することで、口内炎、口角炎、舌炎、脂漏性皮膚炎、食欲減退、貧血、下痢を起こします。
小腸上皮細胞において能動輸送で吸収されます。ビタミンB₂の相対生体利用率は64%と言われています。
ビタミンB₂の役割は、エネルギー産生栄養素の異化代謝の補酵素と神経伝達系の構成分子のため、エネルギー消費量あたりで算定することになります。
レバーを除けば、可食部で過剰摂取が懸念される食品は見当たりませんので、過剰摂取による健康障害の発現があるとの報告はありません。
また、ビタミンB₂摂取と生活習慣病の発症予防や重症化予防の関連を示す報告はありません。
ビタミンB₂がリボフラビンと呼称されるのは、リビトール=ribitolと、ラテン語の黄色を意味するフラビン=flavusに由来しています。
生体内の酸化還元酵素の補酵素であるFMN(フラビンモノヌクレオチド)やFAD(フラビンアデニンディヌクレオチド)の構成成分となります。

アーモンド

ナイアシン
ナイアシンは、ATP産生、ビタミンC、ビタミンEを介する抗酸化系、脂肪酸の生合成、ステロイドホルモンの生合成等の反応に関与しています。
ペラグラ皮膚炎の予防因子として見つかったのがナイアシンです。ペラグラの主症状は、皮膚炎、下痢、精神神経症状です。
トリプトファンを十分に含む動物性のたんぱく質を摂取していれば、自家合成によって供給されるビタミンです。食事摂取基準で耐容上限量が設定されています。通常の食品を摂取している場合は過剰摂取による健康障害が発現した報告は見当たりません。
ニコチンアミドは1型糖尿病患者へ、ニコチン酸は脂質異常症患者への治療薬として大量投与された報告があります。これにより、消化器系、肝臓障害が生じた例が報告されています。
生活習慣病の発症予防の直接的な報告はありません。
生活習慣病の重症化予防として、ニコチン酸の大量投与が脂質異常症や冠動脈疾患に有効であるとの報告はあります。しかし、治療としての投与なので、栄養摂取量としての重症化予防を目的とした量は設定していません。
他のB群ビタミンに比べて、構造は簡単で化学的に安定しています。ニコチン酸、ニコチンアミドともに結晶として得られ、水によく溶けます。また、エタノールにも溶け、加熱によっても壊れにくく、空気や光に対しても安定しています。
*トリプトファン60mgはニコチン酸1mgに相当

イワシの梅煮

ビタミンB₆(ピリドキシン)
ビタミンB₆は、アミノ基転移反応、脱炭素反応、ラセミ化反応などに関与する酵素の補酵素としての役割を担っています。免疫系の維持にも重要なビタミンです。
欠乏するとペラグラ様症候群、脂漏性皮膚炎、舌炎、口角症、リンパ球減少症がおこります。成人ではうつ状態、錯乱、脳波異常、痙攣発作(特に乳児の欠乏症にみられます)などが発現します。ピリドキシンを大量に摂取すると、感覚性ニューロパシー(末梢神経障害)を発症することが知られています。
たんぱく質の摂取量が増加すると必要量は増えます。腸内細菌から生成されるので、普通の食事では不足する心配はないと言えます。相対生体利用率は73%と報告されています。
水、エタノールによく溶け、光では分解してビタミン作用は失いますが、加熱には安定しています。
ネズミの皮膚炎の治癒因子として見いだされたビタミンです。
高齢者は加齢にともなって血漿PLPが減少すると言う報告がありますが、現時点では不明な点が多いようです。
過剰摂取になる食品は存在せず、通常の食品を摂取している限り、過剰摂取による健康障害が発現した報告は見当たりません。
大腸がんの予防因子であることが1997年に報告されました。しかし、食事調査方法が食物頻度調査法であることと報告が一例のみのため、目標量は食事摂取基準では設定されていません。
たんぱく質の摂取量が多い人やエネルギー不足の人は、たんぱく質・アミノ酸の異化代謝が亢進している場合はビタミンB₆の必要量は増えます。

マグロのお寿司