栄養素シリーズ 第3回 糖質
一般社団健康栄養支援センター
医療福祉栄養研究部
管理栄養士:日下千代子
Contents
糖質とは
エネルギー源や身体の構成成分、生理的活性物質として体内で利用されている1つが糖質です。炭素(C)、水素(H),酸素(O)の3元素から成っています。Cn(H₂O)nの化学式で表されます。「炭素の水和物」の意味から「炭水化物」とも呼ばれています。昨今では、「糖質制限」などがダイエット等に有効と言われ、「糖質」と言う言葉になじみがでてきましたが、以前は3大栄養素の一つとして炭水化物と言われることが多く、「日本人の食事摂取基準」では、炭水化物として表記されています。また、「日本人の食事摂取基準」では、食物繊維、アルコールについては炭水化物の項にいれています。
糖質の分類
糖質は、単糖類、二糖類、小糖類(オリゴ糖類)、多糖類に分類されます。
① 炭水化物:水分、たんぱく質、灰分などを引いたもの
② 糖質:消化できる。エネルギーになる
③ 食物繊維:消化できないもの エネルギーにならない(少しはエネルギーになる)
④ 糖:甘味のあるもの
⑤ その他:甘味の少ないもの 少糖類
単糖類
加水分解によって、それ以上糖類に分解できない糖質の最小単位です。単糖類を構成している炭素の数によって、三単糖(トリオース)、四単糖(テトロース)、五単糖(ペントース)、六単糖(ヘキソース)、七単糖(ヘプトース)に分類されます。栄養学的に大事な単糖類は、五単糖(ペントース)と六単糖(ヘキソース)です。
二糖類、小糖類(オリゴ糖類)
2~10個程度の単糖がグリコシド結合したもので、単糖の重合度によって二糖類、三糖類・・・等に分類されます。天然に存在するものの大部分は二糖類です。
二糖類には、スクロース(ショ糖)、マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)、セロビオースなどで、ヒトはセロビオースを分解する酵素をもっていません。
三糖類には、大豆に多く含まれるラフィノースがあり、大豆オリゴ糖とも呼ばれています。
多糖類
単糖が10個以上グリコシド結合したものを言います。1種類の単糖から構成されているものをホモ多糖(単純多糖)、2種類以上から構成されているものをヘテロ多糖(複合多糖)の二つに分類されます。
ホモ多糖
(1) でんぷん
植物の貯蔵多糖で、グルコースから構成されているアミロースとアミロペクチンの混合物です。でんぷんを酵素等で加水分解したものはデキストリンと呼ばれています。
①アミロース:直線状の結合様式で、アミラーゼによりマルトースになどに分解されます。
②アミロペクチン:網目状の結合様式で、アミラーゼによりマルトースなどに分解されます。
(2) グリコーゲン
動物の貯蔵多糖で、グルコースのみからなり肝臓や筋肉に多く存在します。でんぷんと類似の構造をしていますが、グリコーゲンの方が枝分かれの度合いは多いです。アミラーゼによりマルトースなどに分解されます。
(3) セルロース
植物の細胞壁の主成分で、全体として安定な平面構造です。ヒトはセルロースを消化する酵素を持っていません。
(4) キチン
カニやエビなどの甲殻類の殻の主成分で、ヒトはキチンを消化する酵素を持っていません。
ヘテロ多糖
(1) グルコマンナン
こんにゃくの球茎に含まれる多糖で、ヒトの小腸では消化吸収されません。
(2) ペクチン
果実や野菜の細胞膜に含まれる酸性多糖です。
(3) アルギン酸
コンブやワカメなどに含まれる多糖です。
(4) グリコサミノグリカン(ムコ多糖)
アミノ糖やその誘導体、ウロン酸やその誘導体が交互に多数縮合した構造をもつ多糖で、プロテオグリカンの構成要素です。グリコサミノグリカンには、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリンなどがあります。ヒアルロン酸は関節液や眼球の硝子体の成分です。コンドロイチン硫酸は軟骨の成分として多く存在します。ヘパリンは抗血液凝固作用があります。
複合糖質とは
生体内の糖鎖の多くはたんぱく質や脂質と結合した複合分子として存在しています。糖質とほかの生体分子の複合体の総称をさします。大きく3つに分類されます。
(1) 糖たんぱく質
たんぱく質にオリゴ糖鎖が共有結合したもので、細胞膜など体内に広く分布しています。免疫グロブリンやムチンなどは広範な機能をもつ糖たんぱく質です。
(2) プロテオグリカン(プロテオグライカン)
たんぱく質とグリコサミノグリカンが共有結合したもので、大量の水を含んでいますので、他の構造体のクッションや潤滑成分として働きます。皮膚、軟骨、血管壁、角膜などの結合組織に多く存在しています。
(3) 糖脂質
生体膜の構成成分で、神経組織に多く存在します。血液型や細胞の識別に役立っています。グリセオ糖脂質とスフィンゴ糖脂質の二つに大別されます。
糖質の消化と吸収
糖質は、約4㎉/gのエネルギーを産生します。摂取された糖(炭水化物)は、唾液および膵液のα-アミラーゼの作用により、マルトトリオース、マルトース、α-限界デキストリンにまで分解されます。これらの少糖類とラクトース、スクロースなどの二糖類は、小腸吸収上皮細胞の微絨毛膜にある二糖類分類酵素によって膜消化をされて、グルコース、ガラクトース、フルクトースにまで分解されます。
グルコースとガラクトースは、細胞内に能動輸送されて細胞間隙に輸送促進拡散されます。血管へ移行し、門脈を経て肝臓に運ばれます。
フルクトースは細胞内に促進拡散されて細胞間隙に輸送促進拡散されます。血管へ移行し、門脈を経て肝臓に運ばれます。
グルコースとガラクトースに比べてフルクトースの吸収速度が遅いのは、グルコースとガラクトースは能動輸送で吸収されるのに対し、フルクトースは促進拡散によるためです。
糖質の代謝
吸収されたグルコースは血糖として全身に運ばれ、代謝経路の解糖系に入り、エネルギー源として利用されます。他の単糖類は肝臓で個別に代謝され、グルコースと同様に解糖系に入ります。
余剰のグルコースはグリコーゲンに合成され、肝臓や筋肉に貯蔵されます。肝臓のグリコーゲンは血中グルコース濃度が低下したときに、グルコースに変換されて、様々な臓器のエネルギー源になります。
筋肉内のグルコースはグルコースに分解されず、筋収縮のエネルギー源としてのみ利用されます。
グリコーゲンは体内での貯蔵は限界があるため、過剰なグルコースはトリアシルグリセロール(中性脂肪)に変換されて脂肪組織に貯蔵されます。
グリコーゲンの体内分布
*肝臓:質重量の約5~6% *筋肉:質重量の約0.5~1%
糖質の栄養学的な役割
脳、神経組織、赤血球、腎臓細管、精巣、酸素不足の骨格筋等は、通常はグルコースをエネルギー源としています。脳は、体重の2%程度の重量であるにもかかわらず、総基礎代謝量の約20%を消費すると言われています。基礎代謝量が1日に1,500㎉の場合、約300㎉になり、生体活動維持のために最低限必要となるグルコースは約75gになります。
■臓器別のエネルギー源
脳 | グルコース、絶食期間が長い場合はケトン体 *脂肪酸をエネルギーとして利用できない |
肝臓 | ケトン体以外のすべて *ケトン体をエネルギーとして利用できない |
筋肉 | 主に脂肪酸、グルコース、ケトン体、分岐アミノ酸(BCAA)、グリコーゲン |
心臓 | ケトン体、脂肪酸、グルコース |
脂肪組織 | グルコースと脂肪酸 |
赤血球 | グルコースのみ |
血糖値の調節
血糖値は食後30~60分で上昇しますが、健康なヒトの場合は2~3時間後には空腹時の値の70~110㎎/㎗にもどるようにコントロールされています。この調節にはホルモンが深く関わっています。
(1) 血糖値降下作用をもつホルモン
インスリンは、血中のグルコースを筋収縮や脂肪細胞に取り込ませる作用として働き、血糖値を下げます。
(2) 血糖値上昇作用をもつホルモン
グルカゴン、チロキシン、アドレナリン、ノルアドレナリン、成長ホルモン、グリココルチコイドで、血糖値の降下作用を持つホルモンが1つなのに対して多いのは、生命の危機である低血糖に対して速やかな血糖上昇が得られ、、人類が飢餓状態にでも生き延びるためだと言われています。
ビタミンB₁の重要性
糖質のエネルギーの代謝過程には、補酵素としてビタミンB₁、B₂、ナイアシン、パントテン酸などの水溶性ビタミンが必要です。特にビタミンB₁は重要で解糖系、クエン酸回路の重要となる反応の補酵素として作用し消費されます。
ビタミンB₁が含まれる食品は、豚肉、ウナギ、真鯛、ゴマ、雑穀米などです。
*参考資料:https://www.tyojyu.or.jp/ 健康長寿ネットより
糖質(炭水化物)制限について
痩せるためや生活習慣病の予防のために、ご飯やパンなどを摂らない、「糖質制限食」について、様々な情報があふれています。痩せていること=健康(生活習慣病予防)と考える風潮や、美容のために痩せたいなど、主食(ご飯やパン、麺類など)を食べないヒトがいます。しかしながら、健康を保持するためには糖質、たんぱく質、脂質、ビタミン・ミネラルや食物繊維などバランスの良い食事を摂ることが重要です。毎日・毎食においてバランスの良い食事を摂ることは難しいですが、メニューの基本の基である、主食(炭水化物)+主菜(たんぱく質、・脂質)+副菜(ビタミン、ミネラル)を摂ることを心がけることが大切です。それがストレスにならないようにするため5日間~1週間のスパンでバランスをとれれば良いと思うくらいのゆったりとした気持ちを持って、食事を考えることも大事なことです。
糖質と生活習慣病の関係
糖質(炭水化物)は、生活習慣病の予防と重症化予防において、エネルギー源としての働きと血糖値上昇作用に大きな影響を与える栄養素です。
エネルギー源としての炭水化物摂取制限の効果は、肥満症、過体重のヒトを対象にした介入試験では、同じエネルギー量の炭水化物と、同エネルギー量の脂質、たんぱく質とでは、有意に異なるものではないとするメタ・アナリシスが多いようです。つまり、炭水化物を制限して、総エネルギー量を減少させると減量効果を期待できますが、炭水化物制限をしても、たんぱく質や脂質の摂取量が多くなり、総エネルギー摂取量が変わらない時は減量効果が期待できないことになります。
糖尿病患者、高血糖のヒトを対象とした炭水化物摂取制限をした介入試験では、3か月かつ非常に厳格な炭水化物摂取制限(15%エネルギー比前後)で有意なHbA1cの低下が観察されたメタ・アナリシスが存在します。別のメタ・アナリシスでは、それ以上の炭水化物摂取制限や3か月以上の長期試験では有意なHbA1cの低下は観察されませんでした。炭水化物摂取制限は比較的実行可能なもので、他の栄養素の不利益が生じない範囲で長期にできる食事療法ですが、HbA1cの変化を指標とした場合、現在の介入試験等では効果的な糖尿病の改善に寄与しないことを示しているようです。
参考資料:「日本人の食事摂取基準(2020年)」